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セーヌ川を泳いだ選手が本音で語る「水質汚染だけじゃない」問題点…トライアスロン“強行開催”メダル候補選手が涙「こんなことは今までなかった」
text by
齋藤裕Yu Saito
photograph byJIJI PRESS
posted2024/08/03 11:01
セーヌ川から上がるトライアスロン日本代表のニナー賢治。メダルを目指して奮闘するも、結果は15位だった
そして迎えたラン。クロスカントリーの日本選手権に出場し、ランが得意なアレックス・イー(今大会ランで逆転し金メダル)の走法を研究するなど強化をしてきた区間だ。しかし、セーヌの急流を浴び続け、体は悲鳴をあげていた。
「最初の周回で離されすぎてしまった」
疲弊した体で練習の成果を出すことができなかった。
セーヌ川開催に“リターン”はあったか
選手として率直にセーヌ川という会場をどう感じたのか? オーストラリアの大学で2つの学位を取っている理知的な選手は、こんな見方をする。
「トライアスロンはメジャーなスポーツではなく、目を引く美しい場所で開催しようとすることがよくあります。リスクとリターンですよね。選手側にリスクがあるかもしれないが、リターンとして多くの注目を集める場所で行うことができる。そのリスクには『延期』も含まれるということだと思います」
セーヌ川という会場に翻弄された感のある今回のトライアスロン。水質問題ばかりがフォーカスされたが、今回のレースをどう総括するか、最後に聞いた。
「今はまだ分析するのが難しいですが、これまで受けたすべてのサポートに感謝しています。東京五輪から3年間、本当に大きなプロジェクトで、自分はワールドクラスだと信じていましたが、今日それを示すことができませんでした。サポートしてくださった方をファミリーのように感じているし、その方たちに恩返ししたかったのですが……本当に悲しい。それが言えることのすべてです。すいません」
その目はうるみ、言葉を詰まらせた。取材後、チーム関係者と抱擁し、顔をうずめて涙を見せる姿に「メダルへの並々ならぬ思い」が現れていた。
改めて思う。セーヌ川で急ぐように男女同日に開催する必要があったのか。もし、練習などができた状態でスタートしていたらどのような結果になっていたのか。
レース後、座り込む金メダリストを捉えた国際映像では、ゴール後にその眼の前を通り、嘔吐する選手の姿も克明にとらえていた。選手たちを100年以上も泳げなかった未知の河川に放り込み、リターンは一体どれほどあったのだろうか。
<「パリの猛暑事情」編とあわせてお読みください>