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雨に打たれた開会式の影響は…“日本の旗手”フェンシング江村美咲「まさかの3回戦敗退」現地で何が起きていた? 記者に語った“原因不明の違和感”
posted2024/07/31 12:26
text by
齋藤裕Yu Saito
photograph by
JMPA
日本選手団の旗手にも選ばれ、金メダル候補と目されていたフェンシング・江村美咲。今回のパリ五輪で多くの期待を背負った金髪の25歳は、女子サーブル個人3回戦でまさかの敗退を喫した。その身に一体、何が起こっていたのか?
壮行会で吐露「どれだけ準備しても怖いです」
敗れた江村美咲は観客席の前を離れ、力が抜けたように腰を落とした。テレビカメラが待ち構える直前の通路。膝を曲げ、背中を壁に寄せる。20秒間、目の前の一点をただ見つめている。
7月5日、江村が日本国旗を手に登場した日本代表の壮行会。代表の式典服に身を包み、緊張した面持ちの江村は、東京体育館に詰めかけた大勢の観衆を前に心中を吐露していた。
「これから五輪に向かうにあたって、どれだけ準備しても怖いです。自分を信じることは難しいですが、皆さんの応援を頂いて、自分だけでなく皆さんにも信じて頂いている。皆さんからもらったエネルギーを試合でぶつけるだけだと思えました」
どれだけ準備しても怖い。自分を信じるのは難しい。アスリートが抱く心理であり、真理だろう。
印象的な光景がある。遡ること2カ月前、5月31日の日本代表選手の公開練習と取材対応。フランス人コーチのジェローム・グースを記者たちが取り囲む一団の中に江村がいた。身を隠し、視線を落としながらコーチの話を聞く。一部の記者が視線をやると、コーチも「ミサキ、いるの?」と気づき、笑いに包まれた一幕。その姿は茶目っ気を宿しながら、自分を信じるための言葉を、約3年間をともに歩んできたコーチから得ようとしているようにも見えた。
大分に生まれ、オリンピアンの父の影響で始めたが、当初は乗り気ではなかったフェンシング。ご褒美目当てで参加した大会で優勝。以降、メキメキと力をつけ、練習時間を捻出するため、高校は通信制を選んだ。同世代に力が上のライバルはいたが、努力でその差を埋めた。
派手な金髪の風貌とは打って変わって、内面は自他ともに認める「真面目で完璧主義」。開会式の船の上、大雨に打たれながら日本国旗を振ることも貫徹した。ただ、真面目さだけでは世界のほんとうの頂は遠かった。大きく抜け出したのは、ジェロームコーチと出会ってから。ドイツとの国境沿い、ストラスブールから来た指導者は自信を植え付けた。世界選手権を連覇し、五輪でも優勝が有力視されるようになっていく。