オリンピックPRESSBACK NUMBER
「ナガヤマは落ちただろ?」柔道“誤審疑惑”に審判団は笑った「『待て』が間違いだった」不可解説明も…永山竜樹が記者に見せた涙「自分のスキだった」
posted2024/07/28 17:24
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph by
JMPA
「そもそもの話として、永山は落ちたよね? どうだ? 落ちたのか落ちてないのかどっちなんだ?」
「それはトータルで見れば落ちていた。ぐらっときていたと思う」
「だろ?」
論点はそこではないはずだった。それなのに勝ち誇ったようにほくそ笑む審判団を見て、日本代表監督の鈴木桂治は向こうが議論をするつもりはほとんどないのだと悟った。
パリ五輪の競技が本格的に始まった7月27日、柔道の競技会場となるシャンドマルス・アリーナでは、準々決勝までの午前のセッションが終わり、スタンドからお客さんが帰り始めていた。その中で日本代表の金野潤強化委員長、古根川実コーチ、そして鈴木監督が説明を求めて審判席に集まっていた。男子60kg級の永山竜樹が受けた誤審とも思える不可解な判定の中身を質すためだった。
「待てがかかってただろ!」客席からヤジ
スペインのフランシスコ・ガリゴスと対戦した永山の準々決勝。相手は昨年の世界選手権覇者とはいえ、過去6戦全勝の永山に分があるように思われた。
開始直後から得意の内股を仕掛ける永山は、それを潰され、そこからひっくり返されそうになるのを耐える。まったく同じような展開をリピートした後、2分過ぎに三度同じ流れが起こった。少し不用意に繰り返しすぎたのかもしれない。今度は相手に袖車絞めをかけられた。
ガリゴスの腕と自分の首の間に指をねじ込んで必死に堪え、両足を絡ませて相手の体を懸命に引きずり下ろそうとする。絞められ始めて20秒ほど経っただろうか。主審が「待て」を宣告した。
ところが、ガリゴスがすぐに力を緩めない。6秒ほどしてようやく離れた時、永山は失神していた。すぐに目を覚まして自力で起き上がったものの、主審はそのときすでにガリゴスの一本勝ちを宣告していた。
「待てがかかってただろ!」と客席から日本人の声が飛ぶ。永山も収まらない。ガリゴスの握手を拒否し、相手が引き揚げてからも畳の上に残った。もちろん次の試合も始まらない。ブーイングが大きくなる。それは判定に対する疑問の声というよりは、それを受け入れない永山に対するものに聞こえた。その証拠に、3分ほど経ち、観念した永山が一礼して畳を下りるときには拍手が起きた。
「(誤審を)認めたとしても後日だと思う」
「待て」がかかれば試合は止まる。なぜ主審は絞め続けるガリゴスを見逃したのか。