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オリンピックPRESSBACK NUMBER
セーヌ川を泳いだ選手が本音で語る「水質汚染だけじゃない」問題点…トライアスロン“強行開催”メダル候補選手が涙「こんなことは今までなかった」
text by
齋藤裕Yu Saito
photograph byJIJI PRESS
posted2024/08/03 11:01
セーヌ川から上がるトライアスロン日本代表のニナー賢治。メダルを目指して奮闘するも、結果は15位だった
問題は水質よりも…選手を苦しめた“セーヌ川の流れ”
話を聞きたい選手がいた。日本代表のニナー賢治。オーストラリアのパースで生まれ育ち、2021年4月に母の祖国・日本に帰化して、東京五輪に出場。パリ五輪に再び出場した31歳だ。世界ランクは10位と日本勢の中で最高位。メダル獲得を目標に掲げていたエースは、スイム1.5kmを終え、バイクで先頭集団につける。わずか2秒差でバイクを終え、ランへ。メダルも期待できる好位置にいたが、ランの1周目から周回ごとに13~16秒ずつ離されていってしまう。結果は15位。険しい表情を見せるニナーに英語で話を聞いた。
「中段グループで終わってしまって本当に申し訳ないです。世界の先頭集団との差を埋めてこの大会に臨めたと思っていますし、メダルを狙っていたので……力を発揮できなくて、本当に悲しいです」
欧米勢が上位を占めることが多いこの競技において、日本国旗が上位に食い込むのは容易ではない。ただ、オリンピックの舞台でニナーはそれを本気で狙っていた。
「セーヌ川で練習する時間がなくて、異常な状況ではあった。でもそれはみんな同じ条件だから、言い訳にしたくない」
その言葉には悔いが滲む。では、セーヌ川の水質が競技に与えた影響は? ニナーは首を横に振る。
「そこまで悪いとは感じませんでした。ただ、流れが非常に強かった。これまでの競技人生で体験したことがない流れの速さでした」
流れの強さ。これは8時スタートでセーヌ川に入った女子の高橋侑子もレース後に吐露していた。
「予定していたスイムでの2回の事前練習がなくなってしまって、当日に初めてセーヌ川に入る形になりました。水質は気になりませんでした。ただ、流れがとても急で、壁沿いや柱の近くでないと流れが本当に強くて、流れるプールを泳いでいるみたいでした」
前日夜に降り出した雨で作り出された激流はニナーにもダメージを与えていた。
「バイクでは先頭集団に位置していたけど、体は疲労の限界に達してしまっていた。こんなことは今までなかった。あまりに流れが強すぎて、普通なら外側からスイムで前の選手を抜くということもあるんだけど、それがまったくできない状況だった。泳ぎが得意な選手も外から抜こうとトライしていたけど、それも全部エネルギーの無駄遣いになっていました」