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《前半戦総括》ライテクの差が出にくい“F1化するMotoGP”で光った、マルケスとアコスタの類まれなるライダー力
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2024/07/17 17:00
前半戦最後のレースとなったドイツGPで実弟アレックス(右・3位)とともに表彰台に上がり、喜ぶマルク・マルケス(左・2位)
もうひとり注目すべきはルーキーのアコスタだろう。今季、19歳でMotoGPクラスにデビューし、シーズン序盤から素晴らしい走りを見せた。9戦を終えて決勝レースで2回、スプリントで3回の表彰台に立ち、総合6位につけている。ヤマハのエース、ファビオ・クアルタラロが持つ史上最年少PP記録(20歳14日)とマルケスが持つ史上最年少優勝記録(20歳63日)の更新に期待が膨らんだが、残念ながらどちらも果たすことはできなかった。
しかし、クアルタラロとマルケスはチャンピオン獲得が可能なマシンでの記録だったのに対し、アコスタの活躍はまだタイトル獲得がないKTMのマシンを駆ってのもの。それを考えれば彼の活躍はやはり特筆に値する。来季はKTMワークス入りし、初タイトル獲得の期待の中で2年目のシーズンを戦うことになる。
進化なのか退化なのか
最高峰クラスが2ストロークから4ストロークとなって23年目のシーズンを迎える。4ストロークになったことで電子制御が進み、有り余るパワーを容易にコントロールできるようになった結果、ライダーのパフォーマンスの差が出にくくなった。そして近年はエアロパーツなどの進化でマシンのパフォーマンスの差がより鮮明になった。MotoGPクラスで7年目のシーズンを迎えるホンダの中上貴晶は現状をこう語る。
「MotoGPに上がった1年目、2年目はエアロはほとんどなかったし、もっとバイクらしい動きだった。今はマシンに加えてタイヤも進化してきてタイムの落ちもない。全体的にF1化してきているし、ライダーの違いがすごく出づらい。いいバイクに乗れば上にいけるのが目に見えているし、乗れなければどんなライダーでも後方に落ちてしまう。数年前の方が良かった点はたくさんあるし、楽しかった」
今もっとも苦しい時期を過ごしている32歳の中上は「出来ることなら35歳までMotoGPで走りたい」と、最後尾を争うホンダ勢の中でトップを目指す戦いを続けている。
ホンダで絶対王者として君臨したマルケスはドゥカティへの移籍で輝きを取り戻した。来季のヤマハ残留を決めたクアルタラロは、本来いるべき位置からかなり遠いポジションで走っている。
1年前のラップタイムを1秒削り、レースタイムで20秒から30秒速くなっているのが今のMotoGPクラスであり、これからの戦いを予想するのは難しい。いいマシンに乗れる日を待ち焦がれるライダーの心境はいかに。モチベーションをキープするのが、実に難しい時代である。