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結婚発表・藤田菜七子26歳は“男性中心の競馬界”をどう変えたのか? 報道陣が殺到「菜七子フィーバー」から女性騎手の牽引役になるまで
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph bySankei Shimbun
posted2024/07/17 11:02
7月10日に自身のSNSで結婚を発表した藤田菜七子(26歳)。14日には福島競馬場で結婚発表後初勝利をあげた
「武豊以前」と「武豊以後」で、日本の競馬界は劇的に変わった。
同じことが藤田にも言える。「藤田菜七子以前」の女性騎手は、言葉は悪いが飾りのように扱われ、注目のされ方もタレントとそう変わらなかった。ところが、「藤田菜七子以後」の女性騎手は、数が増えたこともあって「いるのが当たり前」の存在になり、藤田以外にも2人の女性騎手が重賞を勝つなど大舞台でも活躍し、男性騎手の勝ち鞍を日常的に奪うようになった。
2019年導入の通称「菜七子ルール」も追い風に
ひとつ、そこに大きく作用しているのは、「菜七子ルール」とも言われた、新たな減量ルールである。
以前の減量ルールでは、男女とも、ハンデ戦と特別レース(重賞を含む)以外の、いわゆる平場のレースに、通算30勝以下の騎手は▲の3キロ減、31勝以上50勝以下は△の2キロ減、51勝以上100勝以下は☆の1キロ減で騎乗することができた。
それが19年3月に変更され、女性騎手のみに適用される新基準ができた。通算50勝以下の女性騎手は★の4キロ減、通算51勝以上100勝以下は▲の3キロ減、101勝以上した場合は◇の2キロ減で乗れるようになったのだ。
藤田は、新ルールができたとき通算56勝で、旧ルールにおける☆の1キロ減だった。それが新ルール適用と同時に3キロ減に戻ったわけだ。20年1月に通算101勝目を挙げて見習騎手を卒業。それからは何勝しても◇の2キロ減で、今年7月14日終了時で通算175勝(地方を含む)をマークしている。
斤量が1キロ違うと、ゴールでは1馬身の差になると言われているので、この新ルールの効果は大きい。藤田がこれほどたくさん勝つようになる前から改正が検討されていたようだが、施行のタイミングが彼女の大ブレイクと重なったため、「菜七子ルール」と呼ばれるようになったのだ。
こんなふうに運や時流を味方につけるのは実は非常に大事なことで、武がデビュー2年目でGI初制覇を遂げたり、3年目で全国リーディングになるなど桁外れの活躍を見せたのも、1980年代後半から吹きはじめた「関西馬旋風」に乗ったところが大きい。それは武自身も認めている。
自身が勝ち鞍を増やしていたちょうどその時期に変更されたルールを味方につけた藤田は、そうして時代をリードする役回りを演じるよう、競馬の神様にキャスティングされていたのかもしれない。