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《稲尾以来の大記録達成》今季打率.360! 打って良し投げて良しのカープ森下暢仁が高打率を残せる“進化”の理由
posted2024/07/15 11:00
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
JIJI PRESS
投高打低が色濃い今季のプロ野球界で、打率.360をマークする選手がいる(データはすべて7月14日時点)。打席数は規定打席の1割程度にとどまるものの、コンスタントに打席に立っている選手。それが広島の投手、森下暢仁だ。
5月4日のDeNA戦では投打にわたる活躍でチームを勝利に導いた。味方の2失策をきっかけに先制を許す展開で、森下は二塁打、単打とヒットを重ねてナインを鼓舞。それでも得点を奪えないまま迎えた1点ビハインドの7回、1アウトから逆転の口火を切る3安打目を放ち、広島ベンチに向けて右手を突き上げた。
「三振しないで打球を前に飛ばしたいと思っていたので、ヒットになって良かったです。2打席目で打った時にちょっとニヤニヤしてしまった。3打席目は点がほしいなと思って、(右手を挙げて)真顔でベンチを見ていたんですけど、あんまりいなかったですね、人が」
そう笑って振り返ったが、投打に奮闘する姿がナインにも伝わって手にした勝利だった。
6月25日のヤクルト戦でも猛打賞を記録した。この日は投げてもすごかった。91球での完封“マダックス”達成で6勝目を挙げた。「100球未満での完封」と「猛打賞」を同試合で記録したのは、1968年9月1日に稲尾和久(西鉄)が近鉄戦で記録して以来だという。
また、投手のシーズン2度の猛打賞は2002年のトレイ・ムーア(阪神)以来で、日本人投手では85年の川口和久(広島)以来。投手と野手の役割がより明確化されたプロ野球界で、今季の森下の打撃は出色のパフォーマンスと言える。
分業制に感じた違和感
大分商高時代は投手だけでなく、ショートやサード、外野でも試合に出ていた。部員数がさほど多くなかったこともあり、全体で同じ練習をしながら、投手練習を行う日々。試合になれば、ヘッドスライディングすることも珍しくなかった。ケガのリスクなど考えていない。3年時に中央球界から注目されたが、高卒でプロ入りするわけでもなく、明大へ進学。投手と野手で練習メニューが変わるなど、色分けされるようになった。
「高校まで普通にピッチャーと野手をやっていたので、大学に入って急に分業になるのはなんでなのかなって」
違和感を覚えながらも、東京六大学野球では投手として打席に立った。投手と向かい合えば、野手としてもプロから注目された高校時代の感覚が蘇る。