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「彼はあまり疲れないタイプだから」藤井聡太の師匠・杉本昌隆が口にしていた“ある予言”…渡辺明の戦略ズバリ“灼熱の名古屋決戦”のウラ側 

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いしかわごう

いしかわごうGo Ishikawa

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posted2024/07/12 11:04

「彼はあまり疲れないタイプだから」藤井聡太の師匠・杉本昌隆が口にしていた“ある予言”…渡辺明の戦略ズバリ“灼熱の名古屋決戦”のウラ側<Number Web> photograph by Number Web

2日目の午後に千日手指し直しとなった王位戦第1局。同日の名古屋市は37度を超える猛暑日だったが、盤上もすさまじい熱気に包まれていた

 相掛かり模様で進んだ将棋は、23手目の▲7七桂で前例がなくなった。

 渡辺は角交換から▲8二角と打ち込み、9一の地点に馬を作って活用する狙いを見せる。一方の藤井もじっと構えて応戦。両者ともに飛車と角の大駒が盤上で攻撃の軸となっていく展開で、中盤戦に突入していく。

 形勢は互角で進んでいたように見えたが、飛車と角のコンビネーションを巧妙に組み込んできた渡辺の指し回しに、劣勢を感じていたと局後の藤井は明かしている。

「ちょっとそうですね。▲8二角から▲2六飛の組み合わせを少し軽視していて、すでに少し苦しい気がしたので。まあ、どうやって頑張るかということを考えていました」

 実際、29手目の▲2六飛と浮いた手に、藤井は残っていた持ち時間の3分の1強の21分を注いで考えている。この時点で藤井の持ち時間は残り34分だ。一方の渡辺は、2時間14分を残していた。時計の針が進むにつれて、「渡辺有利」の色が濃くなっていった。

“稀代の戦術家”渡辺明が証明した健在ぶり

 挑戦者の渡辺明九段にとって、この舞台は去年の名人戦以来、約1年ぶりとなるタイトル戦であった。

 2004年の第17期竜王戦で初タイトルを獲得して以来、渡辺は常にタイトルを保持し続けていた。約20年間にわたって無冠になったことがなく、渡辺明という名前に続く肩書きには、常に段位ではなくタイトル名があったのである。

 しかし昨年6月、最後に保持していた名人位を藤井に奪われ、無冠となった。

 失冠後の成績も好調だったとは言いがたい。4月に40歳となり、記憶力も瞬発力も落ちると言われる年齢に差し掛かったこととも無関係ではないだろう。

 ただ2004年以来となる段位の肩書きでタイトル戦に臨んだ渡辺は、いまも棋界のトップランナーであることをこの盤上で証明している。後手番ながら緻密な戦略で千日手に持ち込み、指し直しの先手番では徐々にリードをつけていく。稀代の戦術家は、21歳の王者を確実に追い詰めていた。

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