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「彼はあまり疲れないタイプだから」藤井聡太の師匠・杉本昌隆が口にしていた“ある予言”…渡辺明の戦略ズバリ“灼熱の名古屋決戦”のウラ側
text by
いしかわごうGo Ishikawa
photograph byNumber Web
posted2024/07/12 11:04
2日目の午後に千日手指し直しとなった王位戦第1局。同日の名古屋市は37度を超える猛暑日だったが、盤上もすさまじい熱気に包まれていた
素直に考えれば、渡辺が優位に進めていくのは間違いない。だが相手は現役最強棋士である藤井だ。従来の物差しでは測れない、桁違いの強さがある。間近で見続けてきた師匠は一言だけ付け加えた。
「だけど、彼はあまり疲れないタイプだから。ここから新たな戦いが始まるというところですね」
指し続けることに関して言えば、将棋界のトップを走る21歳が疲れ知らずのスタミナを持つことを師匠はよく知っている。
それは、まるで数時間後に起きるドラマを予言したかのような言葉だった。
地元で感じた藤井聡太の人気「師匠もよくテレビで…」
大盤解説会場のある中日ビルから、対局が行われている日本庭園「徳川園」までは少し距離がある。とてもではないが歩ける距離と暑さではないので、たまらずタクシーで移動することにした。
藤井聡太のホームである名古屋ということもあり、タクシードライバーにその話題を振ってみたところ、やはり知名度は高かった。中年男性の運転手は「師匠もよくテレビで見かけますよ」と杉本のことも知っているようだった。
現在タイトル戦が名古屋で行われていることもニュースで見たようで、「昨日やってましたよね。えっ、今日もまだやっているんですか」と、2日制の対局であることに驚いていた。さらに「指し直しといって、実はもう一回最初から指しているんですよ」と伝えると、「そんなことがあるんですか!」と興味津々の様子だった。さすが地元である。
15分ほどで徳川園に着くと、建物周辺は閑散としていた。
タイトル戦が行われているので、敷地内は多少賑やかなのかと思っていたが、人影はほとんど見当たらない。出歩いて散歩するのを控えるほどの暑さなのである。
報道控室に入り、対局を見守る。
序盤から先手番の渡辺が主導権を握っていく構図だ。タイトル戦の第1局では「振り駒」によって先手番・後手番が決まる。指し直しにより先手と後手が入れ替わったとしても、お互いにどちらのプランも入念に準備していたはずで、渡辺は先手番で用意していたと思われる作戦を遂行していた。