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「彼はあまり疲れないタイプだから」藤井聡太の師匠・杉本昌隆が口にしていた“ある予言”…渡辺明の戦略ズバリ“灼熱の名古屋決戦”のウラ側
text by
いしかわごうGo Ishikawa
photograph byNumber Web
posted2024/07/12 11:04
2日目の午後に千日手指し直しとなった王位戦第1局。同日の名古屋市は37度を超える猛暑日だったが、盤上もすさまじい熱気に包まれていた
藤井聡太「苦しいかなと…」渡辺明のリードで終盤戦へ
渡辺が馬を活用しながら、飛車を展開して8筋の突破を狙う。53手目に▲8三同飛成と、馬を犠牲にしながら強引に龍を作った。藤井は△7二角で応じるが、大駒を守りに投入しなくてはいけない展開は、やはり苦しいように見えた。
「あのあたりは少しいいのかなと思っていたんですけど……」と局後の渡辺は振り返っている。だが、藤井が56手目に△6四歩と指したことで角のラインが生まれ、受けの角が攻めにも睨みを効かせるようになった。渡辺もやや意表を突かれたと漏らす。
「そのあとに△6四歩を突かれてみると、ちょっとわからなくなった。その後は、なんかあんまりいい手が指せなかったような気がします」
藤井の△6四歩に対して、渡辺は20分ほど時間を投入している。両者の持ち時間の差は、この時点で41分対9分と約30分差にまで縮まった。△6四歩から「ちょっとわからなくなった」と話す渡辺は、一手ごとに時間かけるようになり、81手目でついに両者の持ち時間が逆転。渡辺が5分、藤井が6分となっていた。疲労の色が濃いように見えたのも渡辺で、杉本が口にしていた「彼はあまり疲れないタイプだから」という藤井評が頭によぎっていく。
それでも、形勢は渡辺がわずかにリードしている。
苦しい状況に置かれた藤井が勝負を仕掛けにいく。攻めの主役であった龍を切る決断を下したのだ。王者は守るのではなく、攻め合いに出た。だが残り時間は少ない。十分な勝算があったわけではない中での決断だったと明かす。
「龍を成り込まれて苦しいかなと思っていて……。そうですね。▲8七歩に△8四龍と引いてもなかなかチャンスが少ないかなと思って(龍を)切っていったんですけど……」
渡辺が▲4六同歩と龍切りに応じたことで、6三の地点にいた藤井の角が自陣から飛び出し攻めに転じていく。それは、この激闘が終盤に向けて走り出したことを告げる一手となった。
<続く>