甲子園の風BACK NUMBER
甲子園優勝の名門…なぜ勝てなくなった? 現地で見た“まさかのコールド負け”松山商業「愛媛では強いが…」「エースが“1日2試合”登板」揺れる今
text by
元永知宏Tomohiro Motonaga
photograph byIchiro Sugino
posted2024/07/07 06:00
春は愛媛県大会を制すも…甲子園優勝の「名門」松山商業の今を追った
「いいピッチャーからはなかなか点を取れるものじゃない。そこでどうするかと考えるのが松山商業の野球です。時代とともに変化したことはたくさんあるけど、1点差で勝ち切る野球において大切なことは変わっていない。投手力を含めた守備の徹底です」
2000年代に入ってから、金属バットの威力を最大限に生かしたパワー野球が主流になった。打力がないチームは全国では勝てないというのは現在の常識だ。しかし、今春から金属バットの規定が変わり、打球は以前よりも飛ばなくなった。松山商業には有利になるかもしれない。
「バント、走塁、守備のひとつひとつのプレーが勝負に直結することになるでしょう。ミスをしたほうが負ける。相手のスキを突くチームが試合を優位に進めることができる。そうなると、当然、指導の仕方も変わるでしょう。昔はノックを打ちまくったもんですが、そのやり方はもう通用せんよね」
復活の兆しは見える。
母校の今治西を11度も甲子園に導いた大野監督が指揮を任されるようになったのが4年前。2023年春に県大会準優勝。その秋と2024年春は続けて優勝を飾っている。だが夏の大会では3回戦敗退、初戦負けが続き、甲子園に届かない。
ベンチ外選手も直立姿勢で観戦
黙々とトンボを使ってグラウンドをならす選手たちの動きは機敏で、ひとりひとりの「こんにちは」という声は大きく、清々しい。60名の部員は全員丸刈りだ。
2試合続けてマウンドに上がるエース。
試合後、「気をつけ」の姿勢で監督の言葉を聞く選手たち。
直立の姿勢で試合を見守るベンチ外のメンバー。
彼らの姿から「伝統」が感じられ、「昭和」にタイムリープしたような気にもなる。しかし、ベンチ裏からは「ベンチ外の選手が立って見とったって意味がない。室内練習場で練習するなり、ほかのチームと練習試合をするなりしたらええのに」という声も聞こえてきた。
「伝統」と「変化」でもがく今
高校野球と同様、選手たちの気質もこの20年で変わった。指導する側にも変化が求められている。成功経験があるがゆえに、松山商業は伝統を捨てることができず、甲子園から遠ざかってしまった。
エンドレスの猛練習はもう過去のことだ。厳しかった上下関係も消えた。
残すべき伝統はそのままに、今の選手の気質に合った野球部へと変わろうとしているが、新しい姿はまだ見えない。「伝統」に代わるものは何なのか――もがき苦しみながらそれを探し当てた時に甲子園にたどりつけるのかもしれない。
5度も夏の甲子園を制した名門、松山商業がいまチームとして掲げる目標は「甲子園で1勝」だ。