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慶大キャプテン、関大キャプテン、東北福祉大の学生コーチも!「自主性重視」には逆行も…奈良・生駒ボーイズOBはなぜ令和でも活躍できる?
text by
清水岳志Takeshi Shimizu
photograph byTakeshi Shimizu
posted2024/07/05 17:04
現在も強豪であり続ける生駒ボーイズ。指導スタイルは「令和の主流」ではないが、それゆえに学ぶものがあると選手はいう
音野の父、淳一は車の中でよく話をしたという。
「中学生なんて普段は話なんてせえへん。だから送迎の車の中は二人だけで、いろんな話ができる空間やった」
そうやって親子の絆を確かめ合ったのだ。
「令和の風潮」には逆行も…独自の道を行く
最近の風潮は高校に限らず、全世代で指導者は自主性重視で選手任せの傾向だ。その観点でいうと生駒ボーイズは風に逆らっている。にも拘わらず、20人前後の選手と父兄が覚悟をもって生駒の山を登ってくる。チームを出ていくときも各校の監督から「生駒さんがいうなら、預かります」とスムーズに話が進むという。それは後の世代にも続いていく。
本間が本質部分をいう。
「いくつかのチームの練習を見に行きました。生駒の練習の雰囲気、目つき、ピリピリ感がすごいなと思って刺さったんです。また、ほとんどのチームは来てくれ来てくれ、と誘ってくるんですが、生駒は来たければくれば、という感じで、声をかけてこない。そういうところが自分を伸ばせると思いました。ここのOBは高校に行って野球部を途中でやめる仲間はほとんどいないし、大学でも野球を続ける者が多い」
生駒の扉のこちら側ではコーチがまさに親身になって技術と精神を教える。父兄に関しても“お茶当番”という言葉に最近は敏感だ。生駒には当番はないが、自発的にお茶を出す父兄はいるし、荷物を運ぶこともある。練習中はボール拾いもするがチームが強制していることではない。子供が野球に打ち込む環境にあることに父兄が感謝をしているのだ。本間はそんな姿を『生駒ファミリー』といった。
「自分らの13期の父兄はグラウンド整備を手伝ったり、バッティングピッチャーをしたり、練習試合の審判をしてくださった。僕の父が単身赴任でいなかったので、仲間のお父さんが自分の父のようにやってくれて、ありがたかった」
音野の父も息子は卒団したにも関わらず、コーチとして週末はグラウンドに来る。ファミリーへの恩返しなのだ。そんなチームがアイデンティティを放って存在する。多様性の一例だ。
中学3年の12月のこと。レッドスターカップというエキシビションの大会があった。決勝まで勝ち上がって舞台は甲子園。石田監督は相手チームに頼み込んだ。
「うちには病気で手術をしてリハビリをしてグラウンドに戻ってきたやつがおる。投球練習7球と打者に1球を投げさせてくれへんか」
その時の光景は藤原にも焼き付いている。
「始球式を峻也にやらせてくれと言ったら、『できない』となって、じゃあ先発して1球だけ投げて交代することになった。その一球がど真ん中のストライクで。もう、みんな号泣でした」
音野と同級生たちの友情はまだまだ続いていく。(文中一部敬称略)