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藤井聡太21歳は永世棋聖、羽生善治25歳は畠田理恵さんと結婚…「藤井・羽生ブームと忙殺日程の失冠」“七冠の天才棋士”今と28年前を比較
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph byKeiji Ishikawa/JIJI PRESS
posted2024/07/06 06:00
藤井聡太21歳と羽生善治25歳。「七冠」が刻む世間的な「将棋」へのイメージアップはやはり大きい
「前夜祭での挨拶や和服の着付けは少し慣れました。前回はいろいろなことへの対応に時間を取られ、将棋の研究時間が減ってしまいました。今回は1日に10時間も研究することもあります。羽生さんの強さは、不利になっても土俵を割らない粘り腰です。《羽生マジック》と呼ばれる勝負術には、逆転勝ちへの執念を感じます。その対策として終盤に持ち時間をできるだけ残しておきます。短い番勝負では何があってもおかしくないので頑張りたいです」
三浦は棋士との研究会に参加せず、パソコンを使って独自に研究していた。そんな孤高の姿は「(宮本)武蔵」と呼ばれた。
羽生失冠後、異例の“敗者会見”が行われた
棋聖戦第1局は相掛かりの戦型。後手番の三浦が先攻すると、わずか3時間で優勢となり、夕食休憩前に終局した。羽生にいつもの粘りがなく、タイトル戦でこれほど大差で負けたのは珍しかった。立会人のある棋士は「羽生さん、調子が悪そうだね」と心配した。
その羽生は第2局と第3局で完勝し、棋聖防衛に王手をかけた。第4局は終盤で激しい寄せ合いが繰り広げられ、羽生マジックと思われる手が炸裂した。しかし、三浦は「相手が羽生さんという意識を捨て、盤面に全神経を集中させる」という心構えで冷静に対処し、難局を乗り切って羽生に勝った。
棋聖戦第5局は7月30日に新潟県新潟市・岩室温泉の旅館で行われた。振り駒で先手番を得た三浦は相掛かりの戦型から「いちど指してみたかった」という手法で臨んだ。猛烈な寄せ合いになった終盤では、羽生に勝機があったが勝負手を逃してしまい、三浦が寄せ切って勝った。
第1図(※外部サイトでご覧の方は関連記事からご覧になれます)は投了後の推定局面の部分図。▲4一飛に△同玉は▲4三竜△4二金▲5二金以下詰み。△5二玉は▲4三竜△6三玉▲5四角以下、手数はかかるが詰みとなる。
終局時間は22時15分。両者の1分将棋が続いた状況で三浦は羽生に競り勝ち、シリーズ3勝2敗で初タイトルの棋聖を獲得した。
終局後には敗者への異例の記者会見が行われた。羽生は「いつかはこういう日が来ると覚悟はしていましたが、現実になるとやはり辛いものがあります」と、血の気が引いたような表情で語った。
競争原理が働けば、1人がタイトルを独占するのは…
棋聖戦第1局から第5局までの43日間で、羽生の対局日程は2日制の王位戦七番勝負を含めて9局。対局や所用による忙殺スケジュールを心配する声は出ていた。それは第一人者が乗り越えなくてはならないハードルでもあった。
羽生六冠は1996年の竜王戦で谷川浩司九段(34)に1勝4敗で敗退し、97年の名人戦でも谷川竜王に2勝4敗で続いて失冠した。七冠制覇を達成した羽生でも、タイトルを保持し続けるのがいかに大変かということが分かる。
それから数年後に七冠の可能性を問われた羽生は「正当な競争原理が働けば、1人がタイトルを独占するのは難しいでしょう」と答えた。
藤井竜王・名人は七冠に後退したが、タイトル戦で圧倒的な戦績を挙げていて、その凄さを改めて認識する。