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将棋PRESSBACK NUMBER
「あまり気にせず今後も」藤井聡太21歳八冠崩しに成功「決死の顔面受け」新叡王・伊藤匠に感服…6歳時、短冊に書いた“七夕の願い”とは
posted2024/06/24 11:01
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph by
Keiji Ishikawa
藤井聡太七冠と伊藤匠新叡王が知力の限りを尽くした叡王戦第5局。A級在籍経験のある棋士・田丸昇九段に白熱の対局を振り返ってもらった。【全2回。棋士の肩書は当時】
会場となった常盤ホテル、テレビ番組の大々的な取り上げ方など――各所で盛り上がりを見せたこの一局は、伊藤匠が3筋の桂頭を攻めて開戦した。すると藤井も中段に角を打って7筋の桂頭を狙った。そして、藤井は桂得に成功し、伊藤の玉を直撃する手段を採った。
それが第1図(※外部サイトでお読みの方は、関連記事からご覧になれます)の▲6六銀直で、相手の歩に取らせる強手だ。控室の棋士たちからは「すさまじい手だ」という驚きの声が上がった。実戦は△同歩▲6五桂と王手をかけ、4筋の桂と連動して攻め立てた。
第1図の時点で、藤井の残り時間は2時間48分。前記の師匠の言葉を聞いたかのように、思い切りよく攻めている。防戦に追われる伊藤の残り時間は1時間39分。藤井は2筋の飛車を活用し、伊藤の玉を追い込んでいった。そのまま一気に寄せ切るかと思われたが、きわどく逃げられて意外と難しかった。
伊藤の精神力を見た「顔面受け」
第2図で次に▲6四金△同銀▲同馬で詰む。実戦は△5二銀▲7二馬△4三玉と進んだ。伊藤が銀を引いて玉の逃げ道を作ったのが冷静な受けだった。▲7二馬で飛車を取られたが、△4三玉と引いた形は一時的に寄らない。それにしても藤井の強烈な攻めを「顔面受け」して、苦境を切り抜けた伊藤の不抜の精神力には驚くばかりだ。
伊藤が小康を得て反撃に転じると、藤井は応手に苦慮して自陣を懸命に守った。残り時間は藤井の方が少なくなった。伊藤は3筋のと金を働かせ、敵陣に打った飛車と中段に打った2枚の桂で寄せにいった。藤井の穴熊玉は次第に追い詰められ、ついに受けなしとなった。負けを観念したのか、肩を落としてうつむいた。
両者が1分将棋の秒読みとなった状況で、藤井は持ち駒を駆使して相手玉を詰めにいったが、伊藤に冷静に応じられてわずかに詰まなかった。第3図で△2四玉は▲3四金△2五玉▲3六金で、8筋の馬が利いて詰む。しかし伊藤に△4二玉と逃げられ、持ち駒が足りず詰まない。藤井はその局面で投了した。
藤井と伊藤が対局後、語ったこととは
終局時間は18時32分。伊藤七段は激闘を制して藤井叡王に156手で勝ち、シリーズ3勝2敗で念願の初タイトルの叡王を獲得した。
両対局者は終局後に次のように語った。