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長谷部誠40歳「感極まった」子供と涙のハグ、「妻・佐藤ありささんも気品ある振る舞いで…」記者が見た引退試合と“指導者宣言”の儀式とは
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byTakuya Sugiyama
posted2024/05/26 06:03
日本での引退会見に臨んだ長谷部誠。後ろにはドイツ語で「ありがとう、マコト!」と刻まれていた
子どもたちと抱き合ったとき、「どのような想いがこみ上げてきたから」、あふれ出るものを抑えられなくなったのでしょうか、と。
「自分でも説明のつかない感情でした。結婚して父親になり、そのなかでサッカー選手である以前に、1人の人間としての変化も多々あったと思うので。うーん、説明がつかないな。それについては、また考えておきますね!」
あの涙には何が詰まっていたのか。それをハッキリさせるためには落ち着いて考える時間が必要かもしれない。プロ選手ではなくなった意味を頭と心で完全に理解するまでに時間がかかるのと同じように。
指導者の道に進むのは、決して平坦じゃない
「フランクフルトで指導者の道へ進もうと思います」
引退した長谷部はそう明言する。
サッカー選手が引退して、指導者の道へ進むのは当然だと思う人もいるかもしれない。ただ、これまでは「将来は指導者になるのでしょう?」という意見を投げかけられたとしても、明快な答えは出してこなかった。GMのような仕事も面白いと話すことも多かった。実際に、ボルフスブルク時代のチームメイトにはGMや、それに準じる仕事についた経験のある選手が多い。
何より、レッテルを貼られることを長谷部が好まないのはボルフスブルク編で書いてあるとおりだ。だから、彼は引退=指導者の道へ、という安易な見方には待ったをかけてきたのだ。
だが、今は違う。
「指導者の道へ進みます」
彼は力を込めて宣言した。
この先に控えている道は決して平坦ではないだろう。例えば、フランクフルトのクレシェGMの指摘は興味深い。
「長谷部は、非常に頭の良い選手です。試合を非常に良く理解していて、ピッチ上で試合をコントロールすることができる、試合に影響を及ぼすことのできる選手です。実際に彼が監督になったら、ピッチの外からはそこまで影響を与えることはできません。そういう場面では、ピッチ上で試合に影響を与えてくれる選手が必要になってきます」
将来の〈監督・長谷部誠〉の元に〈選手・長谷部誠〉は存在しない。監督になったときに初めて、監督の要求に応え、やりたいサッカーを具現化する能力――長谷部自身が強みにしていたものだ――がある選手の重要性を感じるのかもしれない。
宣言は“言い訳の余地をなくす”儀式だった
『後悔しないように生きることを信条』とする彼の発言は重い。
明言したのは、この挑戦を心から楽しみにしているからに他ならない。同時に、自身のセカンドキャリアにおける言い訳の余地をなくす儀式でもあった。
腹をくくって、努力する。
今回の指導者宣言にはそんな意味が込められている。
ただ、現役時代と変わらないのは、いきなり頂点を見たりはしないところだ。目標は高く持つが、焦ったりはしない。
ドイツに来てから11シーズン目にして初めて年間ベストイレブンに選ばれたように、興奮を味わったCLの舞台に13年かけて舞い戻ってきたように、長谷部は一歩ずつ、前へと進もうとしている。
<つづく>