核心にシュートを!BACK NUMBER
長谷部誠40歳「感極まった」子供と涙のハグ、「妻・佐藤ありささんも気品ある振る舞いで…」記者が見た引退試合と“指導者宣言”の儀式とは
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byTakuya Sugiyama
posted2024/05/26 06:03
日本での引退会見に臨んだ長谷部誠。後ろにはドイツ語で「ありがとう、マコト!」と刻まれていた
話は試合に戻る。件の〇×クイズは計5問出題され、全問に正解したファンはプレゼントをもらえる――と発表された。そんなおだやかなハーフタイムを終えて迎えた後半だったが、フランクフルトは早々に失点し、0-2となってしまった。
長谷部たちの出番はこないかもしれない。暗雲が立ち込めた。それでも、60分にフランクフルトの未来を担うエキティケがヘディングシュートを決め、1点差。さらに77分にはPKが決まり、同点となった。そしてアディショナルタイムにさしかかる直前に、長谷部とローデが呼ばれた。
ピッチに入った長谷部はこれまでと同じようにチームメイトに身振り手振りで指示を送る。同点のままで試合を終えらせられれば、目標としている6位は確定する。中盤の底に入った長谷部はスペースを埋め、危険なエリアに入ろうとする相手をつかまえるなど、走り回った。
長谷部は感情を抑えていたが
長谷部のラストダンスとして用意されていたのは、およそ3分20秒だった。ボールを触る機会はなかったが、悔しさなど感じていない。これまでと同じように、監督が求める仕事をピッチで完遂し、ドイツでの16年半、トータル22年間のプロ生活を静かに終えた。
試合終了のホイッスルが鳴り響くと、キャプテンのローデはあふれるものを抑えきれなくなっていた。
対する長谷部は落ち着いていた。
笑顔とともにローデの元へ歩み寄ると、抱擁をかわした。ケガの影響が大きく、歯がゆさを覚えながら同じタイミングで引退を決めたキャプテンのローデのように感情を露わにすることはなかった。
長谷部はシーズン中に日本代表戦があるとき、渡航の前から少しずつ寝る時間をずらしていき、時差ボケの影響を最小限におさえていたような選手だ。
計画的に物事を進められる彼は、引退の覚悟を決め、決断を公にするタイミングを調整し、最後の試合に向け、じっくり準備してきた。穏やかでいられたのは、彼の性格だけが理由なのではなく、そうした背景が関係していた……はずだった。
愛娘と愛息がピッチに…抱き寄せ、涙を見せないように
しかし、少しあとに愛娘と愛息が、普段は足を踏み入れることのできないピッチに全力で走ってきたときは違った。