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現役引退から9年…フィギュアスケート界の貴公子と言われた小塚崇彦が重機の免許を取る理由「重機の習得プロセスはジャンプに似ている」
posted2024/06/24 17:03
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
Tadashi Hosoda
フィギュアスケート男子シングルの選手として2010年バンクーバー五輪に出場し、11年世界選手権では銀メダルに輝いた小塚崇彦さん。
16年3月に27歳で現役を退き、現在はトヨタ自動車の社員として「パラリンピック」や知的障害者によるスポーツの祭典「スペシャルオリンピックス」に関わる仕事に従事しながら、自ら主催するスケート教室でフィギュアスケートを指導する日々を送っている。しかし、アイスショーなど華やかな舞台に登場することは少なかった。
そんな折、災害時の被災地支援を目的とする「⽇本財団 重機講習会」に小塚さんが参加すると聞き、開催地の長野県小布施町に向かった。会場にはヘルメット装着姿で重機を操り、生き生きとした笑顔を見せている小塚さんがいた。
小塚さんはトヨタ自動車の社員として働く傍ら、アスリートの社会貢献活動を推進する「日本財団HEROs(ヒーローズ)」で「災害支援チーム」の一員としての活動も行っている。今回の講習参加は、小型ショベルカーなど3トン未満の車両系建設機械の運転資格を取得するのが目的だ。
それにしても、氷上での華麗な滑りや力強いジャンプで観衆を魅了していた小塚さんがなぜ重機の免許を取ろうと思ったのか?
「きっかけはHEROsに誘われたというのがひとつです。でも、自分自身の経験から来る思いがやはり大きかったですね」
小塚さんは自身の思いをこう説明した。
「僕はこれまでにも東日本大震災や熊本地震の時に現地へ行き、アスリートとしてできることは何であるかを考え、運動やストレッチ、マッサージを通じて被災者と触れ合ってきました。行った先ではフィギュアスケートで覚えて下さっている方が多く、喜んでいただけることも多かったのですが、一方でもっと別の方法で支援できるのではないかと考えることもありました。重機を動かせるようになれば、災害支援で新たなアプローチができるのではないか。そう思って今回の受講に至りました」
重機の操作習得プロセスはジャンプに似ている
講習は2日間。重機に乗って実際に土砂や丸太を動かす訓練や座学を受けた。プロである指導スタッフから「ここにいる皆さんは講習を受けて免許を取った瞬間から『プロ』。その覚悟を持ってください」と言われ、場の空気がピリッと引き締まった。