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格闘技PRESSBACK NUMBER
慶應大を飛び級卒業→弁護士を目指す“学生アイドルレスラー”…無村架純“最高の引退試合”とこれから「表舞台に出ることはたぶんない。でも…」
text by
門間雄介Yusuke Monma
photograph byTakuya Sugiyama
posted2024/05/23 11:03
2024年3月に引退した学生レスラー・無村架純。現在は弁護士になるため学業に励む日々を送っている
“最後の試合”で無村が出したかったもの
時間は20分を越えた。
学生プロレスの引退試合は、引退する選手の「まだ終わりたくない」という思いと、相手選手の「まだ終わらせたくない」という思いが強く交錯する。だから死力を尽くした激闘が生まれる。
「いつもなら聞こえる実況やお客さんの声が聞こえなくなって。視野もいつもより狭まるくらい無我夢中でした。余裕は全然なかったです」
普段の彼女には、無村架純と、彼女をプロデュースする“中の人”を、一人二役で演じている感覚があった。
けれどもその瞬間、境目はなくなって、本当の自分がリングに現れた。
それこそが最後の試合で彼女の出したかったものなのかもしれない。
力尽きた彼女を、パチ子の強烈な技が襲う。フィニッシュは全女式ボディスラムから後方に叩きつけるキューティー・スペシャル。
23分6秒、パチ子が勝利を収めた。
“学生プロレス史上最高の闘い”を終えて
女子選手同士の試合としては、学生プロレス史上最高の闘い。そう言っても、決して言い過ぎではない死闘だった。
「採点すると80点です」
そう謙遜するものの、自身の最高の勝負を置き土産に、無村架純は学生プロレスのリングを去った。
KWAから一気に3人が卒業し、選手数がまた低迷期に近いところまで減ってしまったのは心残りだ。だから今年7月の司法試験を経たあとは、大学院に在籍する2025年3月までOGとしてリングに上がりたいと思っている。
でもそれ以降は、二度と学生プロレスにかかわることはないだろう。
「学生プロレスはやっぱり学生が主役だと思うんです。頼られれば協力するかもしれませんけど、表舞台に出ることはたぶんない。でもプロレス全般なら、弁護士として携われることがあればやっていきたいです」
そのときには必ず、学生プロレスを通じて経験してきたことが生かせるはず、と彼女は考えている。
「たくさんの人とかかわってきたので、コミュニケーション能力をはじめ、ソフトスキルは磨かれているはずです。サービス業という点では、弁護士もレスラーも一緒。需要に応じてサービスを提供する仕事なので、絶対にその視点が……なんか就活みたいですけど(笑)」
そのときの彼女の表情は、もはや無村架純ではなく、“中の人”そのものだった。
《引退ドキュメント第1回も公開中です》
(撮影=杉山拓也)