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「その才能を活かしきれていたか?」天才ボクサーと歩むトレーナーの自問自答…内藤律樹32歳はなぜオーストラリアから再び“世界”を目指すのか

posted2024/05/14 11:11

 
「その才能を活かしきれていたか?」天才ボクサーと歩むトレーナーの自問自答…内藤律樹32歳はなぜオーストラリアから再び“世界”を目指すのか<Number Web> photograph by Kokou Sekine

2024年3月15日、オーストラリアでの第2戦をKO勝利で飾った内藤律樹。試合終了直後のリング、わずかに切れた目尻から血が滲んでいた

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関根虎洸

関根虎洸Kokou Sekine

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Kokou Sekine

「……やめます。もう肩がまったく動きません」。東洋太平洋のタイトルを失い、絶望のうちに引退を口にした「リッキー」こと内藤律樹。スパーリングパートナーとしてオーストラリアに発ったかつての天才ボクサーは、次第にボクシングへの情熱を取り戻し……。遠く南半球の地で再び世界を目指す32歳の「ラストサムライ」の奮闘に、トレーナー兼カメラマンの筆者が迫った。(全2回の2回目/前編へ)

「オーストラリアで試合をやらないか」

 2022年の夏にオーストラリアからスパーリングパートナーの依頼を受けたリッキーこと内藤律樹は、3週間のスパーリングを終えて帰国した。リッキーがパートナーを務めたスティーブ・スパークは、次期世界王者候補の1人として注目されていた無敗のサウスポー、モンタナ・ラブとのスーパーライト級12回戦に向けて、背格好が同じでフットワークを駆使して戦うサウスポーのリッキーを日本から呼び寄せたのだ。リッキーはモンタナ・ラブの動画を繰り返し観ながらスパーリングに臨んだ。

「強いですよ。勝っちゃうかもしれません。気が強くて、とにかくよく練習します」

 リッキーがそう評したスティーブは、対戦相手の地元である米国オハイオ州クリーブランドに乗り込んで、無敗のホープからダウンを奪った。そして最後はリングロープから故意に投げ落とされたことによる反則勝ちというアップセットを起こしてしまう。

「またスパーリングパートナーをお願いしたい」

「オーストラリアで試合をやらないか」

 スティーブが米国で無敗の世界ランカーから勝利を挙げたことは、スパーリングパートナーを務めたリッキーにとっても追い風になった。まだ自分もやれる――そう実感したに違いない。

 2021年に東洋太平洋タイトルを失い、一度は引退も口にしたリッキーだったが、いつしかすっかりモチベーションを取り戻していた。

 私もリッキーのオーストラリア行きに賛成だった。30歳を過ぎて、すでにキャリアの晩年に差し掛かろうとしている。父が経営する横浜のジムで練習を続けるにしても、この先はなにかを変えなければならない。環境を変えて、現地のジムに住み込みでボクシングに専念すれば、もう一度ハングリーになれるのではないか。

 年が明けた2023年、リッキーは改めてオーストラリアへ出発した。

【次ページ】 横浜の湾港の会社で働き、渡豪を繰り返した

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