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ボクシングPRESSBACK NUMBER
「その才能を活かしきれていたか?」天才ボクサーと歩むトレーナーの自問自答…内藤律樹32歳はなぜオーストラリアから再び“世界”を目指すのか
text by
関根虎洸Kokou Sekine
photograph byKokou Sekine
posted2024/05/14 11:11
2024年3月15日、オーストラリアでの第2戦をKO勝利で飾った内藤律樹。試合終了直後のリング、わずかに切れた目尻から血が滲んでいた
「今度の試合ですけど、チーフセコンドをコーベンに任せていいですか」
電話を受けると、リッキーが私に訊ねた。
「どういうこと?」
唐突だったこともあり、気持ちの整理が付かず、そう訊き返してしまった。決めていたわけではないが、きっとこれまで通りオーストラリアの試合も私がチーフセコンドを担当することになるだろう、と思っていたからである。
「こっちでコーベンと練習していることがあるので、試合で試してみたいんです」
23歳のコーベンはリッキーが現地でミットを持ってもらっているトレーナーで、ボクシング経験は浅いものの、16歳でトレーナーを始めたボクシングマニアだとリッキーから聞いていた。
「分かった。確かにその方がいいな」
考えてみれば、この1年間のほとんどを見ているのは現地のトレーナーだ。プロデビューから10年以上ずっと私がリッキーを担当してきたが、トレーナーを代えることが選手に効果的な変化をもたらすケースも少なくない。
リッキーの生まれ持った才能は疑う余地がない。だが、自分はその才能を生かしきれていたのだろうか。正直なところ、そんな思いはずっと心の片隅にあった。
本業であるフリーカメラマンの仕事をしながら週に2回ジムへ通うトレーナーよりも、馬の合う専業のトレーナーが付けば、まだボクサーとして成長できるはずだ。若いコーベンなら適任かもしれない。
袴姿でリングに登場、ニックネームは「ラストサムライ」
2023年12月2日。ピッツワースという小さな町で行われた地方興行でデビュー戦を迎えたリッキーは、自ら志願して第1試合に出場した。対戦相手はパプアニューギニアの元国内チャンピオンというルイ・マガイバ。興行主でもあるマネージャーのブレンドンから「ラストサムライ」のニックネームを命名されたリッキーは、短髪に袴姿でリングに登場した。
立ち上がりから落ち着いて試合をコントロールすると、1、3ラウンドにダウンを奪い、4ラウンドにパンチをまとめたところでレフェリーが試合をストップした。2年ぶりの復帰戦はリッキーの4ラウンドTKO勝ち。快勝だった。