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欧州サッカーPRESSBACK NUMBER
「ハシは最高の選手だよ。このマフラーを渡してくれ」プレミア電撃移籍から3カ月…橋岡大樹がルートンの英国人たちに愛される理由
text by
松本宣昭Yoshiaki Matsumoto
photograph byYudai Emmei
posted2024/05/10 17:01
ルートンのサポーターからエンブレムが入ったマフラーをもらったという橋岡大樹(24歳)
「ハシ、君はバックラインなら、どのポジションでも全部できるだろ?」
これは橋岡が今年1月にルートンへ加入した当初、ロブ・エドワーズ監督からかけられた言葉だ。守備陣に怪我人が続出する中、41歳の青年監督はその期待どおりに橋岡をピッチに送り出してきた。本職の右ウイングバックだけでなく、3バックの右でも左でも。
この指揮官が採用する戦術は特殊である。基本コンセプトは、とにかく人を捕まえろ。各選手が受け持つ相手を決めて、マンマークで徹底的に張り付く。そうしてボールを刈り取り、一気に相手ゴールへ迫る。言葉にすればシンプルだが、実行するのはかなり過酷だ。その負荷を、橋岡はこう表現する。
「ディフェンスの選手が走る量、スプリントの数はほかのクラブと段違いだと思います。特に3バックの選手は。うちの場合、自分がマークするFWがボールをもらうために自陣のペナルティエリア付近へ下がったとしたら、そこまで付いていきますからね。それをプレミアのプレースピードの中でやるから、頭の中も疲れます。加入当初は、どこまで相手についていくのか、周りがマークを剥がされたときにどう動くべきか、理解するのに時間がかかりました」
敵陣深くでボールを奪えば、大チャンス。一方、ひとたびマークを剝がされれば、大ピンチ。プレミアリーグ第36節を終えた時点で、ルートンはリーグワースト2位の78失点を喫している。当然、橋岡が失点に絡んだ場面もある。
「絶対に下を向かない」
そのとき、DFはどう振る舞うべきか。欧州へ渡って3年を迎えた男には、流儀がある。
「絶対に、下は向かない。自分に失点の責任があるとわかっていても、そうは見せない。すぐに上を向いて、手を叩いて、周りを鼓舞して指示を出す。周りから見れば、『あれ? こいつのせいじゃないのかな』って思うかもしれないですね」
失点に動揺していたら、相手に付け込まれる。仲間と指揮官の信用も失う。メディアは容赦なく批判の矛先を向ける。ならば、たとえマークを外されても、たとえ顔面でオウンゴールをしても、強気で、強気で。
この姿勢は2018年、浦和レッズの新人時代に培われた。浦和ユースからトップチームへの昇格が決まり、開幕前のキャンプに参加したときのことだ。世代別代表の常連ではあったが、当時の橋岡は、まだ弱気な少年だった。