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欧州サッカーPRESSBACK NUMBER
「ハシは最高の選手だよ。このマフラーを渡してくれ」プレミア電撃移籍から3カ月…橋岡大樹がルートンの英国人たちに愛される理由
text by
松本宣昭Yoshiaki Matsumoto
photograph byYudai Emmei
posted2024/05/10 17:01
ルートンのサポーターからエンブレムが入ったマフラーをもらったという橋岡大樹(24歳)
周りには日本代表クラスの選手がずらり。高校生の自分が本当にプロで通用するんだろうか。そんな不安がプレーに表れていた。これじゃダメだと、自分でも認識していた。だから勇気を出して、ある先輩のもとへ向かった。チームの中でとびきり明るくて、声がでかいその人に、本音を打ち明けた。
「俺、ちょっと縮こまってプレーしてる部分があるんですよね。自分でもそれはわかっているんですけど……」
そんな橋岡を見て、槙野智章は豪快に笑った。
「縮こまる必要なんて、まったくないやん! だってお前が今、ミスをしても何も失うものないだろ。まだ何も得てないし、何も失うものはないんだから、自分がやりたいように、思いっきりプレーすればいいんだよ」
アドバイスは、試合中のコミュニケーション術にも及んだ。
「ピッチに入ったら、名前を呼び捨てにしても全然いいから。年齢に関係なく、対等だと思ってガンガン指示を出して、思いっきりプレーすりゃいいよ」
素直なルーキーは、その後の練習試合で、さっそく行動に移した。
「青木! もっと前に出ろ!」
ユースのときと同じように、積極果敢にプレーした。先輩にも、堂々とコーチングした。プロとしての覚悟が、ようやく決まった。
「お前、呼び捨てにしただろ」
試合後、青木拓矢に冗談交じりでお説教されたのは、18歳の甘酸っぱい思い出だ。以来、プロの舞台でも縮こまることなく自分らしさを表現するようになった。
転機となったウイングバック起用
ポジティブなオーラを放つ選手には、チャンスが舞い込む。2018年4月、リーグ開幕からわずか1カ月あまりの段階で、浦和の監督が交代した。
大槻毅。オールバックの髪型と鋭い眼光により、「組長」と呼ばれた新指揮官は橋岡に、いきなりこう言った。
「今、怪我でウイングバックをできる選手が誰もいない。お前、ちょっとやってみろ」
当時、橋岡はセンターバックを主戦場としていた。でも、失うものは何もない。「とにかく明るい槙野」の言葉にも背中を押され、右のタッチライン際で躍動した。4月11日のヴィッセル神戸戦で初めて先発起用されると、4日後の清水エスパルス戦では初アシストを記録。終わってみれば、プロ1年目でリーグ戦25試合に出場し、1得点。迷いと遠慮を捨てた若者は千載一遇のチャンスを逃さず、右のウイングバックとサイドバックのポジションを自分のものにした。
〈後編に続く〉