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欧州サッカーPRESSBACK NUMBER
「ハシは最高の選手だよ。このマフラーを渡してくれ」プレミア電撃移籍から3カ月…橋岡大樹がルートンの英国人たちに愛される理由
text by
松本宣昭Yoshiaki Matsumoto
photograph byYudai Emmei
posted2024/05/10 17:01
ルートンのサポーターからエンブレムが入ったマフラーをもらったという橋岡大樹(24歳)
ルートン・タウンFCは人口約21万人の街に本拠を構える。29年ぶりに国内トップリーグを戦うこのクラブを支持するファンたちは、辛抱強く、温かく、そして目ざとい。
試合後、ある初老のサポーターは、ルートン応援席に見慣れない顔があることに気が付いた。
「おい! 君は、ハシのファミリーだろ?」
声をかけられたのは、この記事の写真を撮影してくれたカメラマン・延命悠大さん。橋岡の従兄弟である。旅行と仕事を兼ねて、イングランドに滞在していた。延命さんが笑顔で頷くと、おじさんはがっちり肩を抱いてきた。
「顔が似ているから、すぐわかったよ。俺は20年以上、ルートンを応援しているんだ。ハシは最高の選手だよ! 今日のオウンゴールは仕方がない。アンラッキーだっただけだ。大丈夫だよ」
クラブと橋岡への愛を熱弁すると、首に巻いていたマフラーを差し出した。オレンジと白のニット地に、ルートンの街の紋章をモチーフにしたエンブレムが描かれていた。
「これを受け取ってくれ。ハシにもぜひ、見せてあげてほしい」
「この日本人、鬱陶しい」
試合終了から1時間半が経った。エティハド・スタジアムの駐車場で待機していた車の助手席に、橋岡が乗り込んできた。アウェー戦の場合、普段はチームメイトとともに現地のホテルに宿泊することが多い。でも、「試合の日の夜は、どうせ眠れないから」と、車で4時間かけて自宅へ帰ることにしていた。
ハンドルを握る延命さんが、ちらりと横を見た。助手席の日本代表DFは、意外とすっきりとした顔をしていた。5失点して敗れたショックを引きずっている様子はない。かつては自身も名門高校サッカー部でプレーしていた延命さんは、少し安心して、試合の感想をぶつけてみた。
「オウンゴールは不運だったけど、あの後のプレーは良かったと思う。どう?」
橋岡は、静かにうなずいた。
「うん。実は俺も、そう思ってる。やられてしまったものは仕方ないから。切り替えはすぐにできたし、そもそも普段からあれぐらいでは落ち込まないよ。手応えは少なからず感じていたし、試合中、ハーランドも『この日本人、鬱陶しい』って嫌がっていたからね」
確かに。オウンゴールのショックも、顔面の傷みも、どこ吹く風。先制を許した後も、ハーランドにしつこく、激しく、粘っこく体を寄せ続けて、クロスとシュートをはね返し続けた。
マンチェスターからのロングドライブを終えて、あの初老のサポーターからもらったマフラーを手渡すと、橋岡は嬉しそうに笑った。従兄弟の目から見ても、この3カ月で随分たくましくなったと思った。