酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
「新基準バットは3万5000円と高価だが」記者の直撃に高野連「申し訳なく思いますが…」吉田輝星の“球数制限”がきっかけ、今後どうする?
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byHideki Sugiyama
posted2024/04/06 17:02
2018年夏の甲子園を沸かせた金足農・吉田輝星。ただ高野連の中では「球数問題」と“飛びすぎるバット”は大きな課題としてとらえていたようだ
「試合前のノックを見れば、実力差はわかります。ボールを捕るのが精いっぱい、みたいな野手の前に、すごいスピードの猛ゴロが飛んだりするんです。大ケガしなければいいが、といつも思っています」
選手権地方大会の審判員は語る。
コロナ禍によって2020年の高校野球は中断したが、有力校は室内練習場などで練習をしていた。一方で多くの一般的な高校生は練習の機会さえ奪われていた。「格差」はさらに広がったとみるべきだろう。
まさに古谷次長の言う「1、2回戦で負ける高校球児」が野球をする環境が、危機に瀕しているのだ。
新たな金属バットでデータ的にどんな変化が?
今回の金属バットの新基準は以下の通りになった。
【最大径】64mm未満とする 前回より3mm細い
【打球部肉厚】約4mm(従来は約3mm)
導入の目的は(1)投手の負担軽減によるケガ防止、(2)打球による負傷事故の防止(特に投手)の2点だ。
よく飛ぶバットでは、打者優位が過度に進み、投手の球数が嵩む。球数制限を推進するとともに、投打バランスを適正に保つためにも、金属バットの改定が必要となった。さらに打球速度が上がることで、投手や野手が怪我をするリスクが高まる。これを防止する観点である。
金属バットの安全、品質に関しては、前回の規格変更と同様、製品安全協会と全日本バット工業会が協力した。では、新しい金属バットになって、データ的にはどんな変化があったのか。
日本高野連、金属バット工業会は、従来基準バット(製造記号N)と、新基準バット(製造記号R)の打球初速を比較した。
1997年夏の甲子園、徳島商対新湊戦で、投手の受傷事故が発生したが、当時の映像を分析したところ、打点から投手までの距離は15.84mだった。この距離をもとに従来基準の金属バット(N)と新基準のバット(R)を比較すると打球初速は約3.6%減少した。また、反発性能は、新基準バット(R)の場合5~9%減少した。
この前提を把握したうえで――古谷次長に、新基準の金属バットの懸念点について尋ねた。
メーカーの動きには今後とも注視したい
――以前の基準のバットは、メーカーが基準を守りつつも「よく飛ぶバット」を開発したが、今回のバットにその懸念はないのでしょうか?