甲子園の風BACK NUMBER
「大阪桐蔭のセンバツ演奏…本当に高校生?」「仕事を調整、北海道から駆けつけた…」ブラバン研究家が本音で選ぶ“心が震えた応援”7校
text by
梅津有希子Yukiko Umetsu
photograph byYukiko Umetsu
posted2024/03/30 19:00
甲子園アルプス席で撮影。今年のテーマカラー、ピンクのアウターやバッグで揃えた大阪桐蔭野球部
三重と福岡…なのになぜ千葉の応援?
「SNS発」で応援に取り入れた曲のなかで、筆者が思わずうなったのが宇治山田商(三重)対東海大福岡(福岡)戦で両校が使っていた『チャンス紅陵』だ。拓大紅陵高校(千葉)のオリジナル応援曲で、同校吹奏楽部顧問・吹田正人氏が1986年に作った同曲。千葉県内では広く知られている。県大会では半数以上の学校が応援で使用し、ZOZOマリンスタジアムで『チャンス紅陵』対決となるのは珍しくないのだが、ここは甲子園。しかも千葉から離れた三重と福岡の代表校によるレアな対決に驚いた筆者は、思わずアルプススタンドから「先生!『チャンス紅陵』対決です!」と吹田氏に連絡。同氏は「千葉じゃないのに、それはすごい……!」「自分の曲を気に入ってくれて応援に使ってもらえるのは大変光栄なこと」と驚きつつも、うれしそうに話す。これまでにも、『燃えろ紅陵』や『狙え紅陵』など、吹田氏の応援曲はたびたび甲子園でも演奏されており、「わたしの曲はありがたいことに甲子園連続出場中。あとは、早く我が校が千葉県代表として出場するのみです(笑)」とも話してくれた。
他の学校のオリジナル曲を演奏する際、たとえば、『チャンス紅陵』の校名部分を自校の校名に変えるケースが多く見られるが、今回は宇治山田商も東海大福岡もSNSで見た際に、「出所や曲名が明らか」だったことから、きちんと『チャンス紅陵』と呼んでおり、「千葉の学校ですよね。SNSで見て盛り上がる曲だなと思い、使わせていただきました」と拓大紅陵へのリスペクトが感じられた。
かつては、オリジナル曲を対戦相手が気に入って取り入れる。のちに、取り入れた対戦相手が別の試合でその曲を使用し、他校にも広まっていく……というケースが多かった。それゆえ、「オリジナルの学校がどこかわからない」「勝手に名前を変える」という例が散見されたが、「SNS発で正確な曲名も含めて広まるのは、今の時代ならでは」と感じた出来事だった。
「まぎれもない岩井サウンドだ…!」京都外大西
吹奏楽界が驚き、筆者もとても楽しみにしていたのが京都外大西(京都)のオリジナル曲だ。「コンバットマーチ」シリーズと呼ばれ、『A1』『C』『ロック』『スウィング』などがあり、2014年に90歳で亡くなった作曲家・岩井直溥氏が同校のために作った曲だ。
岩井氏は「吹奏楽ポップスの父」と呼ばれ、多くの吹奏楽ファンから愛された作曲家。マーチやクラシック曲などを演奏することが主だった吹奏楽界に、いち早くポップス曲を取り入れたのも岩井氏だ。1977年、海外で人気だったヴァン・マッコイのディスコ曲『アフリカン・シンフォニー』を吹奏楽版にアレンジし、ヤマハの「ニュー・サウンズ・イン・ブラス」シリーズから楽譜をリリースした途端大ヒット。同曲はやがて野球応援でも愛され、不動の人気作品となったが、岩井氏がいなければ球場で演奏されることはなかったのだ。