京都外大西アルプスから応援曲が流れた瞬間、その軽快な曲調に「ああ、まぎれもない岩井サウンドだ……！」と思わず胸が熱くなった。友情応援に駆けつけていた東邦（愛知）マーチングバンド部顧問の白谷峰人氏も「楽譜を見た瞬間、『え！　岩井先生の曲!?』とめちゃくちゃびっくりしました」と驚き、対戦相手の山梨学院吹奏楽部顧問・内藤裕介氏も「応援曲が岩井作品だなんてズルい！！」と笑いながらも、興奮冷めやらぬ様子で聴き入っていた。それくらい、吹奏楽愛好家にとっては「岩井直溥」と聴くだけでワクワクするような、多くのポップス作品を生み出してくれた偉大なる人物なのだ。

オリジナル応援曲で選手にエールを送る京都外大西 ©Yukiko Umetsu

　京都外大西の野球部員は、岩井直溥氏のことまでは知らないものの、「子どもの頃からこの曲を聴いて育ち、いつか自分もこれで打席に立ちたいと思ってきました。野球部みんなの誇りである応援曲を、これからも受け継いでいきます」と力強く話し、吹奏楽部だけではなく、野球部にまで愛されている岩井先生の偉大さをあらためて感じた。

地元民が現地へ…「田辺」「別海」

　ほかにも、海援隊の『あんたが大将』が原曲で、田辺（和歌山）アルプスが一体となったチャンステーマ『田辺が大将』、別海（北海道）の応援には約1万4000人の人口よりも牛のほうが多い酪農の街・別海町から、多数の住民が駆けつけてアルプスをびっちり埋め尽くし、ブラスバンド席にも大人の助っ人がズラリ。仕事の予定を調整してはるばる甲子園まで駆けつけ、朝ドラ『なつぞら』にも登場し、全国の農業高校生におなじみの『FFJの歌』などを披露した。

大人の助っ人が駆けつけた別海アルプスで一際目立っていたバスドラム。センバツのために新調したオリジナルデザイン ©Yukiko Umetsu

近江が友情応援…「日本航空石川」

　能登半島地震で大きな被害を受けた日本航空石川（石川）のアルプススタンドには、教員同士が交流のあった近江吹奏楽部が友情応援に。「能登の人たちに元気を届けたい」と、こちらも朝ドラの主題歌を演奏。1回の攻撃で「希空～まれぞら～」が甲子園の空に響き渡った。中継を通じ、能登半島にも希望の音色が届いたに違いない。

　コロナ禍が明けてマスク姿も減り、すっかり例年の雰囲気が戻ったアルプススタンド。今回も心震える応援が数多くあり、青春の舞台が完全復活したことをしみじみと感じたセンバツだった。

　決勝戦は報徳学園（兵庫）対健大高崎（群馬）。全国的にすっかり定着した人気応援『アゲアゲホイホイ』（『サンバ・デ・ジャネイロ』に「アゲアゲホイホイ」という掛け声をつけた応援）の元祖・報徳学園と、社会人野球・Honda鈴鹿の応援歌『全開Honda』をチャンステーマに使用する健大高崎の応援合戦にも注目だ。