「三原（脩）監督が、“午後から紅白戦をやるぞ”と言っても、ベテランたちはすでにグラウンドにいない。そんなこともありましたから。ジャイアンツでは長嶋（茂雄）さん、王（貞治）さんが率先してランニングをしていたというじゃないですか。うちの場合はベテランが率先してサボっているんですから、それじゃあ強くならないですよ」

「やっぱり広岡さんがチームを変えました」

　しかし、こうしたぬるま湯体質を劇的に改めたのが広岡だった。

「そうです。厳しいことばかり言われましたけど、やっぱり広岡さんがチームを変えました。本当に厳しい人だったけど、時間を経て思い返してみれば、感謝の思いしかない。もしも今、また会うことができるならば、“あのときはありがとうございました”、そう伝えたいです」

　チームに蔓延していたぬるま湯体質を一掃すべく、広岡がさまざまな方策を採ったということはこれまでにも多くの証言を得ていた。さまざまな反発を招こうとも、決して妥協することはなかった。徹底的に厳しさを貫く、孤高の人であり続けた。2時間を超えるインタビューにおいて、杉浦の言葉の中には「厳しい人」というフレーズが何度も出てきた。

「僕にとっての広岡さんは、厳しい人。やっぱり、これしか浮かばないです（笑）」

　すでに古希を過ぎた杉浦が静かに言った。あのとき誕生した長男も46歳になる。あれからかなりの時間が経過したのだ――。

＜杉浦享編の第1回、第2回、第3回から続く＞

#29に続く

「ビール買うてきたで！ あっ…」鬼の指揮官・広岡達朗にバレても飲酒を続け…伝説のヤクルト初優勝“代打の切り札”はなぜ広岡に信頼されたのか？