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笑顔が減った? 難題直面のカープ新井貴浩監督「若い選手を使いたいけど…」進まない世代交代で冴える“調律師”の技
posted2024/03/25 11:02
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
JIJI PRESS
昨年よりも、ベンチでの笑顔が少なくなったように見える。就任1年目の昨季は現役時代のようにベンチで喜怒哀楽を表現し、ときには選手よりも喜びを爆発させていた広島の新井貴浩監督が、今季は昨季以上の難題に直面している。
昨季はリーグ2位となったが、今季の順位予想では下位に予想する評論家が多い。攻撃の核だった西川龍馬がオリックスへ移籍し、アカデミー出身のコルニエルをのぞく外国人選手が総入れ替えとなった。どの選手も実力、日本球界への適応力はともに未知数だ。ドラフト1位の常広羽也斗をはじめ、新人選手は誰も開幕一軍には残れなかった。開幕メンバーの顔ぶれを見ると、日本人選手は昨季いた選手たちばかり。オープン戦を終えても、打線の中心とされる4番も固まっていない。前評判が上がらない理由も分かる。
ただ、新井監督は近い将来のチームを見ながらも、開幕目前の今シーズンにチームを優勝させることしか考えていない。昨季は数年のビジョンを持ってチームをがらりと若返らせることもできたが、そうはしなかった。チーム内にハレーションを起こさないためだけでなく、純粋に1年目から優勝を狙っていたからだ。
限られた戦力での監督の仕事
新井監督は現場で指揮を執る指揮官でありながら、調律師のようでもある。「家族」と表現する選手の技術だけでなく、表情や内面も観察し、声をかけ、ときには導く。今年以上に下位予想が多かった昨季、2位という結果をつかんだチームは健闘したと言える。
長いシーズンを勝ち抜くためには主力選手の活躍は当然必要だが、主力を支える選手の存在も欠かせない。限られた戦力の広島にとって、より重要となるポイントだろう。
昨季、チームを支えた選手の1人に田中広輔の名が挙げられる。先発出場は50試合も、3年ぶりに3桁111試合に出場した。一昨年までは出場試合数が激減し、定位置だった遊撃には小園海斗が台頭した。球団内にも斜陽を迎えた選手と見る者も少なくなかったが、就任したばかりの新井監督は違った。「俺は戦力として見ているぞ」と声をかけ、春季キャンプでは右方向へ強く引っ張る打撃への回帰を進言した。