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オリンピックPRESSBACK NUMBER
「海外が必ずしも正解とは限らない。でも…」日本中距離“最速女子高生ランナー”が名門・ルイジアナ州立大へ進学…異例の決断の裏に“ある選手”の言葉
text by
山崎ダイDai Yamazaki
photograph by(L)AFLO、(R)Hideki Sugiyama
posted2024/03/25 11:03
高2時のU-20世界選手権で6位入賞したものの、高3時は故障の影響で苦しんだ浜松市立高校の澤田結弥。そんな彼女に日本女子中長距離のパイオニアがかけた言葉は…?
杉井は、強化委員としてそんなシーンを何度も目の当たりにした。だからこそ、澤田の持つ気質の貴重さを肌で感じているのかもしれない。
そしてそれは、彼女の育成環境による影響も大きい。
澤田の通う浜松市立高は、学年の半数以上が国公立大に進学する静岡有数の公立進学校だ。いわゆる駅伝強豪校の私学のように、スポーツにフルコミットできる環境とは異なる。
多くの強豪校では当たり前の朝練習も「自由参加」で、メニューも個々人の裁量による部分が大きい。澤田自身は「入学当初は朝練で走り込んだりもしたんですが、急に練習量が増えたからか小さなケガが多くなって。まずは体幹など含めたフィジカル面の強化が必要だと感じて、いまは朝練では補強しかしていないんです」と語る。また、テスト期間中は部活動そのものがなく、赤点を取れば部活参加もできなくなる。
「普通の高校の部活動」だから得られたもの
普段の練習も16時半の授業終了後からはじまり19時には完全撤収で、日曜日は完全オフ。まさによくある「普通の高校」の部活動の姿だ。だからこそその環境で成長するには、自分自身でどんな練習が効果的なのかを自問自答し、考え続ける必要がある。もちろん中長距離パートでも走行距離にこだわることもなく、澤田本人もいまだに「適性距離がよくわからないんです」と苦笑する。
「中距離ランナーと言われることが多いですが、800mは一度も走ったことがないですし、5000mとかも走ることがあるので……」
ただ、その未知数な部分こそが、杉井の言う「強み」そのものなのだろう。
「上半身の腕振りはまだ“バスケ走り”ですが、裏を返せばそれも伸びしろでしょう。また、高3のシーズンを故障で苦しんだこともかえって良かったと思います。上手く行かないときでも出口があることがわかったでしょうし、それこそ海外に行けば一筋縄ではいかないケースも増えるでしょうから」
誰も歩んだことのない道を行くのは決して簡単なことではない。それでも、未踏のルートを進んだからこそ見える風景があるのもまた事実だろう。
弱冠18歳――いまでもまだ競技歴は3年足らずだ。
そんな“未完の大器”が示す新しい道は、ひょっとしたら見たことのない頂へと繋がっているのかもしれない。