巨人軍と落合博満の3年間BACK NUMBER
「裏切り者」嫌われた巨人軍「アウトォー」のヤジも…最悪の状況で落合博満41歳がホームラン“逆襲のオールスター”「居心地悪かったよ」
text by
中溝康隆Yasutaka Nakamizo
photograph byKYODO
posted2024/03/10 11:05
1995年のオールスター第1戦(7月25日)。表彰台で握手する、優秀選手のイチロー(オリックス)、清原和博(西武)、最優秀選手の落合博満(巨人)
「少し詰まったよ。でも、詰まったから、キレないで飛んでいったんだ。いいポイントで打てるようになってきたよ」(週刊ベースボール1995年9月4日号)
近年では中日時代も含め最高とも言える当たりに、開幕前は「落合の四番にこだわることはない」と発言していた武上四郎打撃コーチも、「怪物だよ。あの年齢で本当によくやってくれている。頭が下がるよ」と脱帽した。
遠征先では10時間近く睡眠を取り、食事は宿舎の食堂に誰よりも長く座り、1時間半から2時間かけて、ゆっくりよく噛んで食べることを心がけた。41歳の夏、この男にとってすべては野球のためにあった。4割近い月間打率をキープし、8月17日の広島戦でシーズン10度目の猛打賞を記録すると、打率.325はリーグ4位。トップのパウエル(中日)が右太もも肉離れで長期離脱していたこともあり、にわかに“最年長首位打者”の可能性も騒がれ出す。
巨人1年目の課題をクリアした41歳
『週刊ベースボール』1995年9月4日号では、「41歳・落合博満のサバイバルを賭けた“最終戦争”の行方 V2危機の中で孤軍奮闘を続ける主砲のあくなき戦い」という特集が組まれている。
特筆すべきは、打席別の打率で「1打席目.406(69打数28安打)、2打席目.307(75打数22安打)、3打席目.279(68打数19安打)、4打席目.338(71打数24安打)」と4打席目にも高いアベレージを残している事実だ(8月17日現在)。ベテラン選手は試合終盤になるほど打率を落とす傾向があり、例えば長嶋監督の現役最終年も4打席目以降は97打数23安打の打率.237だが、落合は5打席目以降を含めても打率.312をマークしている。前年の落合は夏場での弱さと試合終盤の低打率が指摘されていたが、驚異の41歳はその両方の課題をクリアしてみせたのである。
なお、41歳で規定打席に到達して打率3割をマークすれば、1955年の戸倉勝城(阪急=.321)、1989年の門田博光(オリックス=.305)に続く史上3人目の快挙である。ただ、これだけの数字を残しながら、それでもなお落合批判はくすぶり続けた。