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「27戦全勝20KOで3階級制覇」無敗のネクストモンスター・中谷潤人はいったい何がスゴい? 元世界王者・飯田覚士が語る“井上尚弥との共通点”
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2024/03/04 17:00
WBC世界バンタム級王者アレハンドロ・サンティアゴを6回TKOでくだし三階級制覇を達成した中谷潤人。無敗のネクストモンスターの凄みと成長を元世界王者の飯田覚士が徹底解説する
「サンティアゴ選手はいいタイミングで当てたとは思います。ただパンチをもらった中谷選手はすぐに左を打ち返しています。それから頭の位置を動かして、右アッパー、左フックと続けました。これは当たらなかったけど、もし体を引いたり、下がったりして打ち込まれていたら握っていたペースを渡しかねなかった。サンティアゴ選手がよし、行けると3ラウンドの開始からガッと来たかもしれない。でも強気に打ち返したことで、その気にさせなかったと言えます」
難敵な巧者であればあるほど試合を進めていけばアジャストしてくる。ならば相手が想定する先を超えていかなければならない。中谷はそれをきちんと準備していた。
「懐を深く、腰を落として低い姿勢で構えると当然ながら自分も鋭くステップインすることは難しい。まずはやりづらいっていうのを植えつけてポイントを取っていくようにしましたよね。そこからは腰の位置を敢えて高くして、上からパンチを振る見せ方をして(低い姿勢と)使い分けをしました。高い位置からだと急所を打つポイントが狭まり、相手の頭を叩いて拳を痛めてしまうこともあるし、打ち抜きづらさもあります。だから中谷選手は変化球のカーブみたいな軌道の打ち方にしてちゃんと当てていました。彼からすれば攻め手が増え、逆にサンティアゴ選手からすれば警戒しなければならないことが増えてしまうのでやりにくいなっていう気持ちがより強くなったのではないでしょうか」
ジワリジワリと追い込んで…
3ラウンドには左でサンティアゴの右目上をカットさせ、4、5ラウンドには様々な角度、多彩なパンチで翻弄していく。飯田が言葉を続ける。
「4ラウンドに右、左、右とワンツースリーがうまく当たらなかったら、次のラウンドは5連打にして右2発当てているんですよね。サンティアゴ選手の攻撃を封じつつ、自分は逆にペースを上げてやれることを増やしていく。まさにラウンドごとに足し算をしていく感じですよね。右のダブルに続いて左のダブルも。派手さはないですがジワリジワリと追い込んでいってTKOにつながったあの6ラウンドがありました」
ダウンシーンは突然にやってくる。6ラウンド、開始35秒を過ぎたところで一度外されたワンツーをすぐさまやり直してサンティアゴの顎をもろに捉えた。高度な技術と駆け引きがここにはあった。
「よく見ると分かるんですけど、外された最初のワンツーの後、スリーで右アッパーを打とうとしているんですよ。でも中谷選手の頭のなかで“打ち切ってもKOパンチにはならない”と瞬時に判断したんだと思います。ならばとアッパーをやめて、もう1回踏み込み直してワンツーを。距離が詰まっていた分当たりましたよね。
サンティアゴ選手も(最初のワンツーを)ダッキングでしっかり避けて、アッパーに対しても左でさばく準備を整えていました。防ぎ切ったと思ったらあのワンツーが飛んできたわけです。もし中谷選手がアッパーまで打ち切ってから次にステップインしてワンツーを狙っても、きっとまたダッキングとかでかわされたに違いありません。間を一拍でも与えていたら逃げられていたでしょうね」
フィニッシュの場面で見えた「成長」
中谷は立ち上がってきたサンティアゴに対して仕留めに掛かる。ワンツーでコーナーに追い込み、最後は右フックをクリーンヒットさせて王者を沈めた。最後の場面でも中谷の成長を見ることができた。