「腰の据わり方とルーズになるガードが課題だったと言いましたが、もう1つ、左を打ち込んだときに左足まで前に行ってしまうというのがよくありました。でも今回は左ストレートの後に、きちんと右のジャブをちゃんと突いていて、追撃にすぐ行けるような体勢にできていたことがあのフィニッシュにつながりました」

　6ラウンドに入る際、ルディ・エルナンデストレーナーから「テンポを上げてアップライトに構えてパンチを出すように」と指示を受けていたことを中谷は試合後の記者会見で明かしている。これは「倒しに行け」とGOサインを出すと意識しすぎて中谷のボクシングが崩れる可能性があったため、敢えてそのように伝えたのではないかというのが飯田の読みだ。プロデビュー前から師弟関係にあるゆえのあうんの呼吸であった。

井上尚弥と重なる点とは？

　バンタム級に上げたことで減量苦から解放されて本来のポテンシャルが一気に引き出される形となった。“ネクストモンスター”と“モンスター”に重なる点があると飯田は言う。

「フライ級のころは身長、リーチといった体格的なアドバンテージを活かす戦い方が多かった。でもそれでは階級を上げたときに当然きつくなります。スーパーフライ級でも見せてはいましたが、今回、適正体重で戦ったなかではっきりと先読みする力、相手の動きに対応する力を示したわけです。井上尚弥選手が凄いのは相手の動きを見切って、どう戦うか弾き出すのがとにかく早い。同じことが中谷選手にも言えるのではないでしょうか」

昨年5月のインタビューで井上尚弥やパウンドフォーパウンドへの野望なども語っていた中谷潤人。27戦全勝20KOと戦績もモンスター級だ　©︎Shigeki Yamamoto

　相手の攻め手を封じて、逆に自分は足し算のボクシングで追い詰めていく。それも駆け引きのなかで応用できる力を見せつけた。6ラウンド、最初に奪ったダウンシーンは3発目のアッパーを引いたうえで再度ワンツーを足したところがまさに象徴的だった。

　パウンドフォーパウンドを目指す中谷にとってひと皮もふた皮もむけるターニングポイントとなった一戦になったことは言うまでもない。