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「27戦全勝20KOで3階級制覇」無敗のネクストモンスター・中谷潤人はいったい何がスゴい? 元世界王者・飯田覚士が語る“井上尚弥との共通点”
posted2024/03/04 17:00
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
言葉を失うほどの圧倒的な勝利であった。
2月24日、東京・両国体育館で開催されたトリプル世界戦。“ネクストモンスター”こと中谷潤人(M.T)がWBC世界バンタム級王者アレハンドロ・サンティアゴ(メキシコ)に臨んだ一戦は、6回TKO勝ちでフライ、スーパーフライ級に続いて無敗のまま3階級制覇を果たした。
中谷は転級初戦がいきなりの世界挑戦であり、かつ昨年7月、5階級制覇のノニト・ドネアとの王座決定戦を判定で制して戴冠したサンティアゴはこれまでダウン経験がなく、回転力のあるパンチと巧みなディフェンス能力を備えたボクサーファイター。事前取材を通して「中谷にとってはかなり難しい戦いになるのでは」というボクシング関係者の見方も少なくなかった。
元世界王者が語る中谷潤人の「凄さ」
だが蓋を開けてみれば、ジャッジ3者ともに1ポイントも失わないままフィニッシュにつなげたパーフェクトな内容。理論派として知られる元WBA世界スーパーフライ級王者、飯田覚士が、その細かすぎてなかなか伝わらない中谷の「凄さ」を紐解いていく――。
「サンティアゴ選手は中谷選手より10cm以上、身長が低いこともあってどんどん相手の中に入っていくような戦い方を想定していたとは思います。ただ前に出ていく力があるとともにバックステップが凄くうまくて、パンチをまともにもらわないのが一つの特長。ドネアとの試合を見ても後半に強いし、中谷選手からしてみれば厄介な相手になると僕も思っていました。
中谷選手がまず何をやったかと言えば、相手が来る前に右ジャブを突いて止めること。それもサンティアゴ選手より頭が低いくらい腰を落とした姿勢にしていました。懐を深くし、空間を広く使って、相手が打とうとすると先に当ててその気を削ぐ。それでも中に入られそうになったらステップで後ろに下がったり、横に回ったり。それも下がりすぎると前に出てくるきっかけを与えてしまいかねないので、必要以上に下がらないことを意識していました。相手の打ち終わりにはちゃんとジャブを突くし、それにフェイントも。簡単に入らせない、入られても追撃されないってことをとにかく徹底していました。
階級を上げるごとに腰の据わりが良くなってきて、打った後のガードが開きすぎる課題も修正されていました。腰が浮く、ガードが甘くなるという気になっていた点は減量苦から来ていたんだなと理解できました」
難敵を「その気にさせなかった」
バンタム級に転級して一発目の試合が世界タイトル挑戦とあって、慎重な入り方ではあった。自分がやりたいことを遂行して、逆にサンティアゴにはやらせない。
それでも2ラウンドの終盤にはヒヤリとさせられたシーンがあった。
残り10秒、ラフに放ったサンティアゴの右を胸に受け、止まったところで左を顔面に打ち込まれた。ただ飯田は追撃させなかった点を高く評価した。