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「バットに当たったとき、ゴキッという音が」甲子園決勝でPL学園・清原和博が放った一打…相手4番打者は「清原を間近で見て、これがプロかって」
posted2023/12/12 11:02
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph by
SANKEI SHIMBUN
阿部珠樹氏のスポーツノンフィクション傑作選『神様は返事を書かない』(文藝春秋)より「KK、戦慄の記憶」の項を紹介します。<全3回の3回目/第1回、第2回へ>
PLに勝つチャンスがあるとすれば…
高知商を6対3で下し、準決勝で甲西に15対2と大勝したPLは、3年つづけて夏の決勝に進んだ。相手は山口の宇部商業である。'83年夏にはベスト8まで進んだことがあったが、決勝進出ははじめてだった。宇部商は春の選抜と6月の練習試合で、2度PLと対戦していた。選抜は2対6とまずまずだったが、練習試合では3回降雨コールドゲームにもかかわらず、ダブルスコアで打ち込まれた。
監督の玉国光男は力の差以上に選手たちの格の違いを痛感していた。
「選抜の開会式で、入場を待っている間に、ほかの学校の生徒がPLの選手にサインをもらっている。ウチも似たようなもので、対戦相手というよりもファンみたいなものでした」
だが、玉国は決勝で当たるのは幸運だと考えていた。
「万が一、ウチがPLに勝つチャンスがあるとすれば、1回戦か決勝しかないと思っていました」
1回戦はPLでも試合慣れしておらず、手探りの戦いになる。決勝なら、そこまでの疲労の蓄積で、乱打戦になる可能性がある。そうなったらチャンスはある。
「それにPLは準決勝で大勝していましたからね。大勝したつぎの試合はどうしても打者が大振りになる。そこにつけ込む余地もあるかなと」
「勝とうとか抑えてやろうという気持ちはなかった」
宇部商はエースの田上昌徳ではなく2番手投手の古谷友宏が先発した。大会に入って田上が調子を崩し、準々決勝、準決勝と古谷のロングリリーフで勝ちあがってきた。そのリリーフを、監督の玉国は決勝の先発に起用した。
「夏は投手がふたりいないと勝てない。そう考えて古谷も育ててきました。それがうまく行きましたね」
初の先発が決勝という特異な起用だったが、マウンドにあがる古谷に緊張はなかった。