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『クレイジージャーニー』密着に「カメラを出すな。撃たれる可能性がある」…ミャンマーの危険すぎる格闘技に復帰、渡慶次幸平「映らなかった本当の姿」
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占部哲也(東京中日スポーツ)Tetsuya Urabe
photograph byTetsuya Urabe
posted2023/11/16 17:01
11月13日放送の『クレイジージャーニー』に登場した「ラウェイ」格闘家の渡慶次幸平。ミャンマー凱旋を本人・関係者の証言で振り返る
なぜボロボロの体で子ども支援をやるのか
「これは第一歩。なんで外国人のチャンピオンが、試合の翌日にボロボロの体で子ども支援をやるのか。夢を持つ子どもがたくましく育つことで未来が豊かになる。だから、大人はそこから目を背けてほしくない。そのためにミャンマーのテレビ局にも同行してもらってニュースにする。自分の手が届く範囲だけど変えられた。そこは救われました。一刻も早く、どこにでもいけるミャンマーに戻ってほしいですね」
渡慶次のスタイルは、スポンサー料で生活やトレーニングをし、ファイトマネーは子ども支援に全額を充てる。国内でも子ども食堂とコラボして月に1回「駄菓子屋トケシ」を開店。ジムのある吉祥寺のハロウィンフェスタでは、後輩でRIZIN、KNOCK OUT-BLACKのベルトを持つ鈴木千裕、ジムに通う経営者と3人で計100万円を用意し、児童養護施設の子どもら1000人以上を無料招待した。街の防犯活動にも参加、一日警察署長も務めた。RIZIN LANDMARKの試合翌日には、対戦した井上雄策を誘って児童養護施設を訪問。ミャンマーの学校再建から始まった活動の幅は着実に広がりを見せている。
クレイジーD&Pが驚嘆「まっすぐクレイジー」
番組で密着した龍にカメラを通して「クレイジー」に感じたところを聞いてみた。死を覚悟して飛行機に乗り、蒸し暑かったミャンマーの夏を思い出したのか、少し間があった後に答えが返ってきた。
「まず、普通、ラウェイという格闘技を選ばないし、ファイトマネー全額を学校再建に使うという考えにも至らないですよね。それも『ガチ』でやっている。学校に行くときも“おひねり”を全部渡していました。有名になりたいとか、名を上げるためとか。簡単に言えば売名行為とか。カメラを通してそういう思いを一切感じなかった。本当に純粋な『ガチ』です」
試合前のウォーミングアップでミットを持ったプロデューサーの武藤も「そう。まっすぐクレイジー」と追随した。渡慶次を取材するとき、いつもママチャリで現れ、去って行く。強面の格闘家と、かわいらしい愛車。非対称なのに違和感がない。前・狂戦士、現・岩男は笑って言う。
「食えない格闘家がラウェイと出合って、食えるプロになって、社会貢献活動を応援してくれる人やスポンサーも増えました。けれど、オレの小遣いはずっと変わんないっす。高級車なんていらないっすよ」。
発する言葉は底の見える湖のように深く透明。相反する「狂」と「徳」が、なぜか手を握り合う。不思議な引力を放つ「ガチな」格闘家には、「クレイジー」の5文字がやはりマッチする。