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『クレイジージャーニー』密着に「カメラを出すな。撃たれる可能性がある」…ミャンマーの危険すぎる格闘技に復帰、渡慶次幸平「映らなかった本当の姿」
text by
占部哲也(東京中日スポーツ)Tetsuya Urabe
photograph byTetsuya Urabe
posted2023/11/16 17:01
11月13日放送の『クレイジージャーニー』に登場した「ラウェイ」格闘家の渡慶次幸平。ミャンマー凱旋を本人・関係者の証言で振り返る
「学校を建て直して、情報がたぶん入ってくるようになったと思う。ちょっとしたきっかけで夢が0個から5個になった。親が『◯◯になりなさい』って子どもに言う。そうしたら、貧困から抜け出せるからって。すごくいいことだと思う。自分もホームレスを経験して分かりましたけど、貧困は思考を停止させますから。停止から少しだけ前に進んだ。ちょっとだけ世界が広がった。もっと、もっと、たくさんの種類の夢を聞きたいですね」
みんなおかしくなっている
環境が変われば人は変われる――。自身はラウェイと出会って人生観が変わった。国から忘れ去られた学校に通っていた子どもたちは、校舎が新しくなり、夢を手にした。3年半ぶりとなる本場でのラウェイ。「デビュー当時より腫れていない顔での初訪問でよかったですね」と声をかけると、渡慶次は呆れたように首を横に振って告げた。
「みんなおかしくなっている。感覚が麻痺している。うちの嫁も同じこと言っていました(笑)。めちゃくちゃ痛いですからね。今も骨が腫れているし、試合の翌日も黒い尿出しながら学校に行っていますから。学校訪問の次の日は、痛みで一日中、ホテルで寝ていました。まあ、毎度のことなんですけど」
今回の混乱で亡くなった対戦相手も
番組では試合後に目頭を押さえ、涙する渡慶次が映し出された。
「ミャンマーで苦しんでいる人、今回の混乱で死んじゃった人とかに、もっと魅せたかったっすね」
胸にしまっていた思いを吐き出した。いろいろな思いが複雑に絡み合っていたのだと思う。ラウェイ通算19戦目。リングで拳を交えた戦友たちがいるが、軍、民主派勢力に分かれ、兵士となって殺し合う現実がある。偉大な戦士も銃の前では無力。今回の混乱で亡くなった者の中には対戦相手もいた。リング上で狂い、生死を懸け、戦ったからこそ刻まれた思いがあるのだと想像するしかない。
ディレクターの龍は「(亡くなった対戦相手の)お墓参りをしたい意向もあったのですが、危険地帯で実現できなかった」と教えてくれた。再建した残り2校も同じ理由で足を運ぶことができなかった。学校再建の資金を得るために骨折しながらも振り抜いた右手の指の握力は今も戻っていない。渡慶次は右手の腹で器用にペットボトルのふたを開け、乾いた口に水を含んだ後、静かに切り出した。