炎の一筆入魂BACK NUMBER
3連敗のCSでカープ大瀬良大地が見せたエースの矜持と、新井監督が「みんなが認めたエース」と語った真意
posted2023/10/24 11:02
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
JIJI PRESS
背負い続けた使命を果たした。10月19日、CSファイナルステージ2戦目。360度、黄色が揺れる甲子園の大歓声は、広島・大瀬良大地が今年背負ってきたものに比べれば気にするほどではなかったのかもしれない。
1点リードの2回は1アウトから連打に味方の適時失策が絡んで阪神に追いつかれるも、続く坂本誠志郎を外角カットボールで空振り三振に切った。その後、2アウト一、三塁から投手の伊藤将司も空振り三振。同点の5回も1アウトからの安打を機に、2アウト一、二塁とするも、再びカットボールで中野拓夢のバットに空を切らせた。
マウンド上で2度、雄叫びを上げながら、右こぶしを握る気迫とともに阪神打線を抑え込んだ。試合には敗れたものの、大瀬良は7回を1失点(自責ゼロ)に抑え、敵地の大歓声を何度もため息に変えた。
新井貴浩監督はシーズン開幕直前、開幕投手に指名した大瀬良を「みんなが認めたカープのエース」と表現した。
カープのエースとは
エース像は人それぞれだが、新井監督はエースに投げていく姿、立ち居振る舞い、チームを背負える投手を求めているのだと思う。それができる投手は、今の広島には大瀬良しかいない。そう感じたのだろう。黒田博樹(球団アドバイザー)という大エースを間近に見てきた新井監督が口にすると、“エース”という言葉の重みが増す。
大瀬良自身、誰よりもその言葉の重みが分かっていた。
「記事で見たんですけど、本当に言ったのかなと思いました。新井監督はこれまで誰に対しても、そういう表現をしていませんでした。監督が現役のときからエースとは、という話を聞かされていたので、喜びはなく、求められるものに対して向き合ってやっていかないといけない。ただの言葉じゃないなと」
新人王を獲得した翌年からチーム事情で中継ぎに配置転換された時期もあったが、2018年には3連覇に貢献。翌年には初の開幕投手を務めるなど、投手陣の先頭に立って戦ってきた。今季も春季キャンプを経て5年連続の開幕投手を勝ち取り、開幕直後は順調に滑り出した。だが、間隔を置いて登板した4月26日の中日戦で、左太もも裏に違和感が生じて4回で降板。5月19日の阪神戦は、右肘の炎症を理由に登板を回避した。気持ちとは裏腹に、体が思うように動いてくれないときもあった。