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小野伸二は“孤独な天才”だった?「シンジは本当の才能を気づいてもらえず…」「メッシ、マラドーナの境地に近い」風間八宏が語る核心
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byRaita Yamamoto
posted2023/09/30 11:03
日本サッカー史に残る天才MF小野伸二。引退しても珠玉の技術の記憶は永遠に色褪せることはない
小野の場合、ボールを止めることはもちろん「どこにボールを置けば正確に蹴ることができるかも知っている」ので、長短ともに正確無比なパスが通せる。
「俺たちが教える時、まず〈どうすればボールを完全に静止させられるか?〉を意識させていく必要がある。そこから〈頭で考えて足を出す〉ではなく、〈ボールを止められるポイントに自然と足が出ちゃう〉くらいのレベルにしないといけない。伸二はそれが無意識でできるレベルに達しているんだけど、それは彼が子どもの頃からずっとボールを触ってきたからこそだよね」
そして風間さんによると、「止める蹴る」を高いレベルで実現することで得られる別の能力があるという。それはピッチ全体の状況を「見る」センスである。
「彼の脳内で〈ここの空間に合わせてパスを出して、受け手を追いつかせよう〉といった計算が即座にできている。つまり、普通の人には見えない映像が見えて、それを記憶する能力があるんじゃないかと感じるんだ」
記者に「意味が分かんない」と言われたアシスト
具体例として挙げたのは、トルシエジャパン時代の'01年7月、パラグアイ戦での柳沢敦へのアシストだ。自陣左サイドでボールを受けた小野は、はるか前線での柳沢の動き出しを認知し、相手GKの前に広がる空間に的確なロングパスを送った。スピンのかかったボールは柳沢の目前にぴたりと落ちてほどよくブレーキがかかり、柳沢はこれを左足で叩いてゴールネットを揺さぶった。
風間さんは懐かしそうに記憶をひもとく。