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五輪断念→NHKに直電→オーディション合格…元体操日本代表候補・福尾誠が『おかあさんといっしょ』“誠お兄さん”になるまでの「意外な軌跡」
posted2023/09/28 11:06
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph by
本人提供/Yuki Suenaga
60年以上続く人気番組『おかあさんといっしょ』で第12代「体操のお兄さん」を務めたのが“誠お兄さん”こと福尾誠だ。2019年に番組に抜擢されると、親しみやすいキャラクターで瞬く間に人気を集め、今年2月の卒業発表時には多くのファンから「誠ロス」の声が続出した。4月に発売された卒業記念ムックは発売前重版、4万部を突破するなどその人気はいまも衰えない。
その福尾だが、実は幼少期から体操競技をはじめ、大学時代は五輪出場を目指すなど日本トップクラスの選手だった過去がある。夢見た世界の大舞台をケガで断念した後、「福尾誠」はいかにして「誠お兄さん」になったのか――?《全2回のインタビュー後編/前編から読む》
◆◆◆
1つの夢が潰えたとき、福尾の頭の中に浮かんできたのはもう1つの夢のことだった。
その夢との出会いも遡ること中学時代、アテネオリンピックの時と同じようにテレビを見ていたのがきっかけだった。このときは画面の向こう側ではなく、こちら側にその理由はあった。
「親族が保育施設をやっていて、子どもたちと一緒に遊びながら『おかあさんといっしょ』を見ることがあったんです。それまでおもちゃを散らかし、ガチャガチャしている子どもたちが、番組が始まると全員釘付けになって見始める。その姿を見て、これぞ子どもたちのヒーローだと。ずっと体操をやっていたから、いつか自分も体操のお兄さんになってみたいという思いがあったんです」
オリンピックの夢に区切りがつき、体操を生かして自分に何ができるかを考えたとき、あらためて思ったのは一心にテレビを見つめていた子どもたちの眼差しだった。
夢は「五輪出場→子どもたちのヒーロー」へ
そうときたら切り替えが早いのが福尾のいいところでもある。
ある時、順天堂大学の体操部に取材にきていたテレビクルーに、どこの取材ですかと尋ねるとNHKだという。思わず前のめりになった。
「あの、僕、体操のお兄さんになりたいんですけど、どうしたらいいのかが分からないんです」
スタッフの回答は必要最小限かつ極めて的確だった。
「どうにもならないと思います」
ただ、NHKの代表番号だけは教えてもらえたから電話をかけてあらためて売り込んだ。やはりそのタイミングではお兄さんの募集はしていなかったため、福尾は夢を寝かせたまま大学院に進んで勉学に励み、そのかたわら体操部のコーチにも就任。今回の世界選手権代表になっている萱和磨や東京五輪代表の谷川航らの指導にあたる日々を送っていた。