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五輪断念→NHKに直電→オーディション合格…元体操日本代表候補・福尾誠が『おかあさんといっしょ』“誠お兄さん”になるまでの「意外な軌跡」
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph by本人提供/Yuki Suenaga
posted2023/09/28 11:06
『おかあさんといっしょ』第12代目「たいそうのおにいさん」だった福尾誠。かつては日本代表を目指すトップ体操選手だった
「もっと体操のお兄さんでいられたら嬉しかったし、もっともっと子どもたちと遊びたかったですけど、僕にとっては間違いなく人生の最後に思い出すような特別な経験になりました。今もツアーを回れば子どもたちから応援の手紙をもらえる。日本中どの地域に行ってもですよ。それってすごいことですよね。体操のお兄さんになれたからこそ世の中に出ることができた。とても感謝しています」
競技者時代のかつてのライバルたちもそろそろ現役を退き、実業団のコーチであったり、それこそ子ども向けの体操教室であったりと新たなキャリアを踏み出している。
福尾も再び新しい道を歩き始め、現在は歌のお兄さんだった横山だいすけとのツアーなどで全国を飛び回っている。
大ファンだった「あの選手」がくれた粋なプレゼント
その門出を粋な形で祝福してくれたのがあの男だった。
体操のお兄さんを卒業して数カ月経った頃、贈り物が届いた。中に入っていたのは、楽屋の入口にかける楽屋のれん。送り主は内村航平だった。
選手時代、すっかりファン目線で内村に接していたという福尾は、会うたびに大会のIDカードやTシャツなどにサインをねだっていた。
「近しい選手たちの中で僕が一番内村さんのサインを持ってるんじゃないかと思います、たぶん(笑)。同じ競技をしている人間にとっては神様ですからね」
のれんには「福尾誠さんへ 内村航平より」、中央にでかでかと内村のサインが描かれている。それは内村がナルシストなわけではなく、福尾が一番喜ぶものを考えてデザインしてくれたのだ。お前が一番欲しいのはこれだろ、と。
福尾も最近あらためて内村の存在感の大きさに気づくという。
「こっちの世界に来ても内村航平はモンスターだなと思います。『体を使って表現する』『体操』『スポーツ』とキーワードを並べていくと、やっぱり内村航平に行き当たるんです」
福尾は今、内村から贈られたのれんとともにツアーを回っている。選手時代に「内村さんに勝てなくてもチーム戦で一緒に戦うことはできる。一緒にチームを組めるようになりたい」と思っていた福尾の願いは、それから何年も経ったこのタイミングで少しだけ叶ったのかもしれない。
「不思議ですよね。体操のお兄さんとして活動できたからこそ今がある。自分自身の生きる道を進んできたら、ここまで来ることができたんです」
子どもたちと過ごした時間を思い出すようにして福尾は言った。
「人はそれぞれ個性も違いますし、特に子どもたちをみてると本当に個性ってバラバラ。それを尊重してそれぞれの夢を持って生きることができたら幸せだと思います」
福尾誠(ふくお・まこと)
1992年1月11日、東京都生まれ。2人の姉の影響で2歳半から体操教室に通い始め、小学生になってから競技クラスに入る。岡山・関西高から順天堂大に進学。同大大学院博士課程修了。2019年4月からNHKEテレ『おかあさんといっしょ』の第12代体操のお兄さんとして4年間活動。現在は横山だいすけとのミュージカルツアー『世界迷作劇場 2023〜24』などで活動中。