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五輪断念→NHKに直電→オーディション合格…元体操日本代表候補・福尾誠が『おかあさんといっしょ』“誠お兄さん”になるまでの「意外な軌跡」
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph by本人提供/Yuki Suenaga
posted2023/09/28 11:06
『おかあさんといっしょ』第12代目「たいそうのおにいさん」だった福尾誠。かつては日本代表を目指すトップ体操選手だった
そして大学院での研究も終わりに近づいた頃、ついに体操のお兄さんのオーディションの話が舞い込んできた。長年の思いが通じたのか見事に合格。14年間務めたよしお兄さん(小林よしひさ)のあとを引き継ぎ、第12代の体操のお兄さんに就任したのだった。
ところがというべきか、当然のことながらというべきか。就任当初、福尾は画面越しに視聴者にもびんびん伝わってくるほど緊張していた。それまではただの学生だったのだから仕方がないが、大学院生時代には子ども向けの体操教室もやっていた。そもそも親族の保育施設に出入りしていたのだから、小さい子どもたちと触れ合うことに緊張はしなかったはずだ。
福尾はうなずきつつ、苦笑いで明かした。
「スタジオってやっぱり独特なんです。カメラがあってたくさんの大人もいて、テレビショーなのでセリフがある。一方で子どもたちは、ただ楽しみに遊びに来てくれているから仕事感は出せない。その狭間で失敗できないというプレッシャー、緊張を感じてましたね」
「体操競技者」と「体操のお兄さん」の違いは…?
体操競技をやっていたからこそ不慣れな部分もあった。演技が成功しても失敗しても感情をあまり顔には出さないようにするのが体操競技。それに対して体操のお兄さんはむしろ表情で気持ちを表現しなければいけなかった。元来、感情豊かに表現するタイプではないというだけに余計に戸惑った。
「そのあたりの顔の筋肉というか、周りのみんなより弱かった部分がありました。頑張って鏡の前で表情を作る練習もしたんですけど、結局作っている表情ってバレてしまうんですよね。どうしたらいいのか考えながら収録を続けていました」
競技と同じように上達するには毎日の積み重ねしかないのだろう。日々の収録が何よりのトレーニングとなり、徐々に戸惑いは解消されていったという。
「最初は段取りに追われていたのが、収録の流れがきちんと頭に入ってからは、子どもたちと遊ぶ時間を純粋に楽しめるようになっていきました。楽しさの何かを表現したというよりは、子どもたちから教わったことが自然ににじみ出た。子どもたちがいてくれたおかげで僕の表情も少しずつ成長できたんじゃないかと思います」
競技の経験は福尾にしかない強みでもある。新しくお兄さんに就任するにあたり、「今までのお兄さんたちよりもすごいアクロバットができる」と意気込んでいた福尾のために、初めてのファミリーコンサートではスペシャルな演出も用意された。