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「決めればヒーロー、でも外したら…」ラグビーW杯伝説のキッカーはなぜ松田力也の笑顔にホッとした? イングランド戦“理想の展開”も解説
posted2023/09/15 17:00
text by
大西将太郎Shotaro Oonishi
photograph by
Kiichi Matsumoto
W杯前のテストマッチではプレーに精彩を欠いた。リーグワンではキック成功率85.5%をマークしてベストキッカーに選ばれているが、大会前最後のイタリア戦では2本を大きく外していた。しかし、チリ戦では全6本のコンバージョンキック(2点)を成功。1本目を冷静に決めたことで“自信”を取り戻したように思う。
先制された日本は、すぐにLOアマト・ファカタヴァがトライを奪った。コンバージョンキックの角度はおよそ45度。一見、簡単そうに見えるが、キッカーにとっては「入れごろは外れごろ」とよく言うもの。つまり「入って当然」という状況で蹴るほど難しいことはない。しかも、今大会から『ショットクロック』(試合時間のスピードアップを目的とした制限時間の提示。キッカーはコンバージョンキックを90秒以内、ペナルティーキックを60秒以内に蹴らなくてはならない)が導入されていることで、重圧は以前より増している。
そんなアンダープレッシャーで、本来のゆったりとしたフォームから危なげなく決めた。初戦でキック成功率100%は心強い。蹴るタイミング、時間の掛け方も落ち着いていて、何より覚悟を決めた表情だった。力也はとてもいい顔だった。
ゴルフのスイングと同じでフォロースルーが大切
前述のイタリア戦でのミスは風や芝生の感覚の影響もあったのかもしれない。ただ、そのほかのプレーでも低調に終始し、厳しい声も耳に入っていただろう。でも、「過去は過去、未来を変える」というマインドセットで臨んだことが大きかった。
実際にチリ戦でのゴールキックはいずれも弾道が良かった。イタリア戦ではボールがやや浮いている印象だったが、しっかり足を振り切ったことで力みがなくなりボールに力がしっかりと伝わっていた。ゴルフのスイングと同じで、キックはフォロースルーが大切。ただ不安が先行すると、どうしても“当てに行く”意識が強くなり、悪い状態では足が止まる。上半身と下半身のバランスを見直し、キックの動作を見直したことが功を奏した。