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「決めればヒーロー、でも外したら…」ラグビーW杯伝説のキッカーはなぜ松田力也の笑顔にホッとした? イングランド戦“理想の展開”も解説 

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大西将太郎

大西将太郎Shotaro Oonishi

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photograph byKiichi Matsumoto

posted2023/09/15 17:00

「決めればヒーロー、でも外したら…」ラグビーW杯伝説のキッカーはなぜ松田力也の笑顔にホッとした? イングランド戦“理想の展開”も解説<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

キッカーが背負うプレッシャーを知る大西将太郎氏は、SO松田力也の復調を大いに喜んだ

 W杯で結果を出す上で、キッカーの成功率は非常に重要な要素だ。2015年の五郎丸歩はルーティンを突き詰め、恵まれた体格を生かした飛距離あるキックで日本を牽引した(全98得点のうち53得点)。2019年の田村優はサッカー経験を活かした天才的なボールコントロールでスコアを重ねた(全118得点のうち51得点)。それを受け継ぐ力也は総合力が高いタイプでキックでも正確性が売りだった。ただ、プレッシャーのかかる大舞台で外す印象もあるのは事実で、本人も嫌なイメージを払拭するよう試行錯誤してきたと思う。

 ゴールキックは、ラグビーの中で唯一個人が担う特殊な仕事。他では味わえない喜びを感じられるが、だからこそ責任は大きい。ヒーローになれるチャンスがあるが、結果を左右する役割でもあるから、覚悟をもって臨むのだ。

大西将太郎がW杯でキックを蹴った理由

 私も2007年大会でキッカーを務めた。当時は怪我人が続出し、キッカーを頼まれたのは実は大会開幕の1〜2週間前。SOも負傷で代わったので、その負担を減らしたい思いもあった(大西さんは12番)。一晩考えて引き受けた。腹をくくるしかなかった。

 なぜあの時に「蹴る」と決断できたか。それは“準備”にある。W杯の2年前頃からダン・カーターらキックの名手を指導してきたキッキングコーチの下で、セレクトされた選手が特訓を受けた。なんでお前が?と言われたが、私も「4、5番目で蹴る機会があるならば」とその練習に参加していた。常に準備をしていたからこそ「蹴る」と決断できた。結果的にあのカナダ戦では同点のキックを決めることができ、改めて準備の大切さを学んだ。

 力也のあのチリ戦の表情は、しっかり準備ができたという裏返しだったのだろう。雑音を封じ込み、修正すべき点を改善し、本番に注力できていた。試合後、久しぶりに日本代表の選手たちの笑顔が見られたが、力也の笑顔が一番ホッとした。

【次ページ】 「力也がスコアを重ね、最後はマツがトライ」

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