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相手の大声援、痛恨の被トライ…なぜ日本は慌てなかった? 流と松田、2人のベテラン“異常な落ち着き”でブレなかった「局地戦」《ラグビーW杯チリ戦》
posted2023/09/13 17:00
text by
多羅正崇Masataka Tara
photograph by
Kiichi Matsumoto
非日常の祝祭空間だ。上半身裸のチリ代表サポーターがいる。飛び跳ね、ラグビーW杯初出場の母国代表「ロス・コンドレス」に声援を送っている。
オーレー! オレオレオレー!
サッカーでお馴染みの大声援がスタジアム・ド・トゥールーズに響き渡る。大音量スピーカー並みの爆音だ。
前半6分、チリが先制トライを決めた。大歓声がトゥールーズの青空を衝き上げる。2023年9月10日。日本代表のW杯フランス大会は、チリの狂喜乱舞から始まった。
W杯初戦で7点を先制された日本。
しかし、落ち着いていた。
「プレッシャーをかけられた時間帯もありましたが、誰もパニックになることなく、自分たちとゲームをコントロールできました」(SH流大)
相手の大応援。真夏のような暑さ。NO8姫野和樹主将の欠場。そして押し寄せる「この日のために」の熱い感情。何もかも尋常でなかったが、W杯が尋常でないことは想定内。チームとゲームを掌握するべく、日本は集中していた。
全員で、同じ絵を見る。
「どんな時も、みんなで同じ絵を見ることが重要でした」(SO松田力也)
全員で意思統一を図る――「同じ絵を見る」ことの重要さ
日本に圧倒的なフィジカルはない。だから緻密な戦略の遂行力で勝負する。そのためには連携を高める全員の共通感覚――同じ絵を見ることが重要だった。それが1勝5敗と奮わなかったW杯イヤーで再確認した要諦だった。
「ハドルでもお互いに目を合わせ、リーダーがポイントを言って、それを実践することを続けました」(SO松田)
異様な高揚感の渦中で、日本はベテラン勢のリーダーシップが頼りになった。
姫野主将に代わってゲーム主将を務めた31歳のSH流。今大会限りでの代表引退を公言している19年大会経験者は、チームに同じ絵を見させることに集中していた。