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相手の大声援、痛恨の被トライ…なぜ日本は慌てなかった? 流と松田、2人のベテラン“異常な落ち着き”でブレなかった「局地戦」《ラグビーW杯チリ戦》
text by
多羅正崇Masataka Tara
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/09/13 17:00
チリ戦でゲームキャプテンを務めたSHの流。ベテランの安定感がテストマッチから続いていた悪い流れを断ち切ってみせた
この日の日本が見ていた重要な“同じ絵”があった。
「相手陣の22m内でプレッシャーを掛け続けることが大事でした」(SH流)
チリはどのエリアからでもボールを保持して攻めてくる。事実チリのパブロ・レモイネHCは「私たちは出来る限りボールを持っておきたかった」と試合後に語った。そこを逆手に取った。
「相手は自陣からでも攻めてくるので、そこでエナジーを使ってもらおうとしました」(SO松田)
そのためにペナルティゴールを一度も狙わなかった。ペナルティゴールを成功させれば3点は取れる。しかし試合は相手ボールのキックオフから再開。結果、自陣に下がってしまう。
チリ陣内で揉み合っておけば相手は消耗する。チリには季節逆転の南半球からやってきた不利もある。日本の守備を再三突破したFBイニャキ・アジャルサは、運動量の落ちた終盤を振り返り「チリは冬。今日はとても暑かった」と吐露した。
光ったベテラン選手たちの「落ち着き」
当然ながらSH流は孤軍奮闘でなかった。リーダーの数は日本の強みだ。
SH流が退いた後半21分以降は、4大会連続出場の主将経験者、34歳のFLリーチマイケルがハドルの中心にいた。そして同じく大会経験者で、同じ帝京大学の先輩、後輩もいた。
9番の流と共にゲームメイクで重責を担う10、12番の2人だ。
「(松田)力也が自信をもってアタックをしてくれて、ディフェンスは(中村)亮土さんがリードしてくれていました」(SH流)
アタックの司令塔、29歳のSO松田。前回大会は全試合でリザーブ。念願のW杯先発試合で、大会経験のあるスタンドオフとしての責務を遂行した。
「初めての舞台の人もいますし、みんなが緊張している中、ゲームをどうコントロールするかが重要でした。良い判断や、同じ絵を見ている場面は多かったと思います」(SO松田)
キッカーも務めたSO松田。プレースキックの成否はスコアに直結するため、チームの心理状態に影響を与えるが、SO松田は6本あったコンバージョンキックを全成功。
100%のキック成功率で、チームを落ち着かせた。