スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
「日本はチリに“ある数字”で負けていたが…」チリ戦直後、リーチマイケルの顔が「2週間前とは全然違った」現地記者が見たラグビーW杯
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/09/11 17:24
ラグビーW杯初戦チリに42-12で勝利。現地ファンへ挨拶するリーチマイケル
「22mに入ればトライを取れるという分析でした。ただし、試合の前からそうすると決めていたわけではなく、現場判断で決めていきました」
W杯という大舞台、常道はペナルティゴールで3点を狙い、点差を広げることだろう。しかし、それよりも日本はタッチキックで相手陣深く入ることが、チリに対してより大きなプレッシャーになると考えていたわけだ。結果を見るなら、それが成功した。
ランメーターのからくりは、日本は敵陣深く侵入していたため、短いレンジからトライを狙えたからで、数字が伸びなかっただけである。反対にチリは、自陣からアタックを仕掛けたわけで、それが大きなゲインにつながった。それでも、トライラインは遠かった――。
私が日本代表からスリーピースのスーツを連想したのは、冷静にテリトリーを優先させていたからだろう。陣取りは、基本的には地味だ。しかし、そこにはリスクを減らす実利がある。日本は実利を得て、勝利を手にした。
2週間前、イタリア戦と違うリーチの表情
さて、次週はアルゼンチンを破ったイングランド戦である。
イングランドは開始早々に7番のトム・カリーがレッドカードで退場し、圧倒的な不利となった(この瞬間、ボルドーのカフェに集っていたアイルランド・サポーターが歓声を上げていた)。
ところが、ラグビーとは分からないものだ。迷いの消えたイングランドはスクラム、接点、そしてペナルティゴール、ドロップゴールによる「3点刻み」に徹したことで、アルゼンチンに隙を与えずに勝ってしまったのだ。
プールステージの勝ち上がりを考えると、アルゼンチンの勝ち点が0だったことは後々、響いてくる可能性がある。もちろん、日本にとっては好都合だ。
今回の日本は、ここに来て「狙った仕事」ができそうな気配が漂い始めた。
なにより、ミックスゾーンでの選手たちの表情が良かった。
前哨戦のラスト、イタリアに敗れた時とはまったく違うリーチの安堵。
中村亮土の充実。
W杯初出場となった下川甲嗣の喜び。
そして、W杯4回目出場の堀江翔太がいう。
「今日勝ったことが自信になるというよりも、ずっとやってきたことを全員で信じてるだけなのでね」
チームは熟しつつあるようだ。
今まで一度も勝ったことがないイングランド相手には、きっちりとしたスリーピースを着る必要はない。温存してきたクリエイティビティを発揮する時間である。
さて、日本はイングランド戦で、今回もまた世界を驚かせることができるだろうか。