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ラグビーW杯を揺るがす“危険タックル”への判定…「レッドか、イエローか」微妙な判定にリーチら選手の本音「ハッキリ言って、レフェリー次第」
posted2023/08/29 11:06
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
Getty Images
イタリア戦のあとの、フラッシュ・インタビュー。リーチ マイケルが落胆の表情をはっきりと浮かべることは珍しいから、21対42での敗戦は、リーチにとって重たい現実だったのだろう。
それでも、私はホッとした面がひとつだけあった。
誰にもレッドカードが出なかったことである。
2019年と比べても、ラグビーは変わった。選手のウェルフェア、引退後も良き人生を送ってもらうために、頭部への衝撃を与えるタックルは厳しく取り締まられることになった。
この動きに対しては諸手を挙げて賛成する。脳震盪が選手の人生をいかに狂わせるかは、アメリカンフットボールのNFLに多くの事例があり(一例として、若くして認知症が進んでしまったため、娘の結婚式なのに、自分の娘とは認識できずに出席している元選手の話を読んだことがある)、世界のラグビー界も選手たちを守るために動き出している。
その結果、トライの確認に用いられることが多かった「TMO」、映像判定はいまや危険なタックルの取り締まりに活用されている印象がある。
強化のプロセスを狂わせたレッドカード
この夏、日本もリーチ マイケルとピーター・ラブスカフニがレッドカードを受け、出場停止処分が下された。この2枚のカードが日本の強化プロセスを狂わせたのは間違いない(ラブスカフニのタックルは、私はイエローが妥当だったと思っている)。
もしもイタリア戦で誰かにレッドカードが出されたら、ワールドカップのチリ、イングランド、サモア戦に出場できなくなる可能性が高くなっていた。特にケガ人続出でメンバー編成に苦労しているロックに出ようものなら、限りなく危険信号が灯る。敗れはしたが、それだけは回避できた。