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「日本はチリに“ある数字”で負けていたが…」チリ戦直後、リーチマイケルの顔が「2週間前とは全然違った」現地記者が見たラグビーW杯
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/09/11 17:24
ラグビーW杯初戦チリに42-12で勝利。現地ファンへ挨拶するリーチマイケル
チリはスーツを着る日本に対し、荒々しく筋骨隆々、タンクトップでストリートスマートを連想させるタフな集団だった。
「フィジカルが強い」という話は聞いていたが、接点での力強さは噂以上だった。特にフッカーのディエゴ・エスコバル(23歳!)は、自慢の怪力で日本からターンオーバーを奪っていった。
日本のジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチは「チリは悪魔のようにタックルを繰り返してきた」と試合後に振り返ったが、チリの選手たちからは「なんとしても日本に勝ちたい」という気概が伝わってきた。ジェイミーは続けて、
「いろいろな意見はあるだろうが、チリはこの日のためにワールドカップにやってきたと思う」
と話したが、それは選手たちだけではなく、観客も一緒になって感情を高ぶらせていた。
応援団が上げる大歓声、怪鳥の啼き声を連想させる指笛、大モニターに映し出される日本のグレーゾーンのプレーに対するブーイング。すべての情熱が投下されたような日曜の午後のトゥールーズ。
チリの“データ”が上回った理由
チリの情熱は、マッチデータでも証明されていた。
ポゼッションはチリの56に対して日本の44、ランメーターは639対489で、こちらもチリの数字が上回った。どうりでチリのアタックにスタンドの大歓声が湧いたわけだ。
では、日本はなぜ42対12という点差で勝てたのか?
テリトリーである。
テリトリーでは日本が66パーセント、相手陣に居座ることが出来た。これは試合前のゲームプランそのものだったようだ。この日、6本のゴールキックをすべて決めた松田力也は、試合後にこう話した。
「今日はどんどん相手ゾーンに入っていって、スコアを狙いにいくというプランでした」
「現場判断で決めていきました」
この戦略は、相手の反則から得たペナルティキックの選択にも影響した。ゲームキャプテンを務めた流大は、1本もペナルティゴールを選択せず、タッチキックで相手陣深くに侵入することを徹底した。
試合後の会見で流は、その理由をこう話した。