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「私が負けたらスターダムが否定される」中野たむの覚悟…現役“赤いベルト王者”はなぜレジェンド・神取忍の顔面を張ったのか?
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橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byEssei Hara
posted2023/09/10 11:00
![「私が負けたらスターダムが否定される」中野たむの覚悟…現役“赤いベルト王者”はなぜレジェンド・神取忍の顔面を張ったのか?<Number Web> photograph by Essei Hara](https://number.ismcdn.jp/mwimgs/5/2/700/img_522f50ea5fc35fdc50ea423ffbfcd112369246.jpg)
リングでレジェンド神取忍との初邂逅を果たした中野たむ。現スターダム王者はなぜ“負けられなかった”か
「これで終わりじゃねえぞ」発言の真意とは?
怒らせたら何をされるか分からない。本質的にそういう怖さがある選手だと分かって、その上でたむは顔面を張った。覚悟を示すには、タイトルマッチ要求も欠かせなかった。あくまでも本気だ。
「負けたらスターダムからタイトル流出。はっきり形として歴史に負けたことになってしまう。それでも“神取忍に勝ったスターダム”という結果がほしいんです」
交わった以上は一歩も退けないし、それどころか女子プロレスの歴史を奪いにいく。「これで終わりじゃねえぞ」というフレーズは、神取自身が北斗晶戦で敗れた後に言ったもの。それを神取に言い放ったのだから大胆だ。北斗vs神取、伝説の名勝負の舞台は93年4月2日の横浜アリーナ。たむはその30年後、今年4月に横浜アリーナで赤いベルトを巻いた。
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「横浜アリーナでチャンピオンになった私が、横浜アリーナでの神取忍の言葉を使うっていう。そこまで意識しました」
中野たむが生み出し続ける“波紋”
歴史と向き合う、歴史に踏み込む。そのアピールとしての「これで終わりじゃねえぞ」だった。たむの気質として、ただ試合をして終わりにしたくないという思いもあるのだろう。
たとえば9月10日のスターダム横浜武道館大会では、特別企画として「ドリーム・タッグ」の試合が組まれた。ユニットの枠を超えたタッグをファン投票で選出し、マッチメイクするというものだ。たむは元パートナーの白川未奈と組むことになった。
その記者会見で、たむは自分のもとから離れていった白川に「勝ったらまた手を組むのもありかな」とチーム再結成とも取れる発言。シングルリーグ戦5★STAR GPでヒールユニット所属のスターライト・キッドに勝つと、やはり「身の振り方、考えてもいいんじゃないかな」と呼びかけている。
試合をして勝った負けたというだけでなく、そこからいかに“次”につながるストーリーを紡いでいくか。ユニット「コズミック・エンジェルズ」のリーダーにして全選手の人生を預かる赤いベルトのチャンピオンだからこそ、中野たむは波紋を生み出そうとする。
神取とのタイトルマッチが実現するかどうか、今のところは不透明だ。次の防衛戦は刀羅ナツコを挑戦者に迎えることが決定している。だがそれでも、たむが神取忍戦に本気なのは間違いない。筆者としても見てみたいと思う。それは「今の神取に勝ったところで」とはならない迫力と凄味を神取に感じたということでもある。
もし対戦が決まれば、会場はそれこそ神取応援ムード一色になるだろう。赤いベルトのチャンピオンである中野たむは、それすら踏み越えようとしている。レジェンドに負けず劣らず、たむもまた“怖い”選手だ。
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