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「ベランダからこのまま…」レジェンド女子レスラーを襲った“更年期障害とコロナ鬱”…井上貴子(53歳)が今語る「恋愛、結婚、プロレス」
posted2023/09/02 11:02
text by
伊藤雅奈子Kanako Ito
photograph by
Takuya Sugiyama
1988年に全日本女子プロレス興業(以下、全女)でデビューした井上貴子(LLPW-X)の名前を世に知らしめたのは、写真集だった。四半世紀もの長きにわたって“売れるオンナ”であり続け、今年35周年を迎える貴子が語る、これまでとこれからの話。《NumberWebインタビュー最終回/#1、#2から続く》
18歳で女子プロレスラーになって、今年11月のバースデーで54歳になる。現在は、LLPW-Ⅹを神取忍と二人三脚で支える。あまたの女子プロ団体のように多くの若手選手を抱えるわけではなく、定期的に主要マッチを開催しているわけでもない。しかし、前身団体のLLPW時代から変わらず、芸能活動や慈善事業ほか、ジャンルレスな外交がさかんだ。
ヨガ講師やファッションプロデューサー、YouTuberに選手育成、ドッグフードのアンバサダーほか、さまざまな肩書きを持つ。順風満帆に思えるが、更年期障害にコロナ鬱が重なったころは、自死が頭をよぎったという――。
◆◆◆
――一度も引退することなく、35年間もプロレスを続けてこられました。こんなに長くやると思っていましたか。
貴子 思ってなかったです。30周年だった48、9歳のときに、「自分が主役のイベントは最後ですよ」って言ってたんですけどね。50(歳)前に辞めるつもりだったから。ケガもしてたし、体力の限界というか。体調も悪かったし。そのあとかな、更年期(障害)のような症状が出たんですよ。朝起きたとき、絶望感がすごくあるんです。私、このまま生きてても……みたいな考えになっちゃった。「ダメ、ダメ!」と思って、ベランダに出る。出るんだけど、このまま(飛び降りたら)……みたいな……。
――えっ!?
コロナ鬱は誰にも相談できなかった
貴子 マイナス思考になってるから、自殺ってことをすごく考えちゃってたんです、あのころ。
――心身が疲弊するほど、追い詰められる出来事があったんですか。
貴子 ないの、何も。体調が悪いわけでもないのに、朝起きたら「なんでこんなに辛いの?」っていう気持ちに襲われる。客観的に見れたからとどまることができたけど、見れない人は行動に移してしまうんだろうなって、怖いなって思いました。コロナ期だったから、人と会わない、話さない、プロレスもできないという状況で、そういうことが初めてだったから、というのもあったかもしれない。
――俗にいうコロナ鬱、ですね。何がきっかけで復調したんですか。
貴子 現実的なことを考えて、気づいたんです。私には父親がいるし、友達もいる。ワンちゃんも2匹いるから、そんなことしたらあの子たちが生きていけない、あの子たちがいるうちは絶対に死んじゃいけないって、心に誓いました。そうしたらだんだん解決していって、あと、ある芸能人が自殺したニュースを見て、「はっ……」と我に返ったっていうのもある。死んだらこんな風に(世間に)出ちゃうんだって。
――誰にも相談しなかったんですか。
貴子 しなかった。相談できる内容じゃないしね。あとになって、「実はこういうことがあったんだ」とは言ったかもしれないけど。でも、もう大丈夫ですよ!